美しき愛の別館＠SS投下用スレ (157ﾚｽ)
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138: ｽｹベ受理2 2/3 2015/09/24(木)07:35 AAS
「佐波だ…お前ちょっと太ったんじゃないのか？」
「そうでっか？酒控えなあかんですね」
新曲の練習中、何かの弾みでバンドのメンバー達と談笑を始めた受理を、沙理はどこか遠慮しながら見つめていた。
「油断するとすぐに太るなぁ、お前は」
受理は猪上バンドの面々に囲まれ、とても居心地良さそうにしていた。
虎達時代では考えられなかったことだ。あの頃は毎日のように他のメンバーと衝突しており、沙理が仲裁に入る事が多かったのだが、このバンドではその役回りは必要無かった。
猪上バンドのメンバー達は皆、受理をとても甘やかしていた。
華やかな方を眺めた印象では、受理の為にと云う皆の愛情が我の強い面々を団結させているように見える。
受理を可愛がることで、このバンドがひとつの運命共同体を形成しているように思えた。沙理もその運命の一端に、劣等感に苛まれながら身を置いている立場ではあるのだが。
「みんな、真面目にやってくれよ」
途切れた集中を何とかするべくマネージャーが休憩を入れると、バンドのメンバー達は煙草を吸いにスタジオから出ていった。
沙理も口寂しさを感じたものの払拭できぬ鬱っぽさから、ドアの外に出る気分になれず、雑に置かれていたパイプ椅子に座ってひとり沈黙していた。
「ねぇ、沙理…」
「な、何や…！」
沙理は突然話しかけてきた受理の静かな口調と佇まいに驚いて、思わず声を上げた。
「………別に何もあらへんけど、そないに驚かんでもええやん」
受理も煙草を吸うつもりはないらしく、沙理の隣にパイプ椅子を置いて座った。
いつの間にか受理とふたりきりになっていたようだ。
沙理はこの状況に緊張していた。
なぜなら。
「ち、近ないか…?」
受理は椅子と椅子の間を隙間なく密着させていた。という事は身体もそれなりに密着しているという事だ。
受理の右半身の重みが体に伝わる。その悪意なき感触に、沙理はどぎまぎしてしまい、動揺しているうちに呆気なく先手を取られた。
「ワシと沙理の仲やんか。水臭いわ」
と言いながら、沙理の膝に手を置き、悪戯にまさぐり始める。
「ちょ、やめぇ…」
「本当にやめて欲しいん?」
受理は沙理に妙な視線を投げかけながら、指先の動きをより滑らかにした。
「佐波だ…?」
徐々に表れる受理の魔性の微候………受理は綺麗な顔を沙理に向けたまま、瞳にけだるい欲望を、唇には妖しい笑みを浮かべている。
「なぁ、教えて欲しい事があるんやけど、答えてくれへん?」
太ったことを気にする先程までの受理とは別人だった。
その魔術めいた表情の変化に意識を絡め取られ、沙理は受理から視線を反らす事が出来ない。
「沙理…最近、元気ないやろ？どうかしたんか？」
受理は攻勢を緩めない。
鉄パイプに座した膝と膝の間を徐々に広げ、乱雑に脚を放りながら、沙理の肩に顔を傾ける。
受理は明確な意図を持って沙理に接近していた。
「何か悩みでもあるんちゃうか？」
口元は沙理を案じて小さく悩ましく開いている反面、反った腰のラインと首の動作のスローモーションが非常に官能的で沙理を誘惑しにかかっているし、上目遣いで沙理を見詰める瞳に滞留する妖しさが、今にもおっぱじめようと仕掛けているように思えてならない。
「そんな事ないで…」
沙理は色仕掛けに乗るつもりはないようだ。
心の動揺を素っ気ない振りをしてやり過ごし、俯いて目線を逸らすことで抗い難い魅力から逃れようとする。
「怖じ気づかんと、ホンマの事言うたってぇな…」
受理は沙理の肩に頬を擦り付けてきた。
今度は甘えた作戦で追い撃ちをかける受理に、沙理はただ耐え忍ぶしかなかった。
誘惑に負けてしまったが最後、受理に導かれるがまま口が動いて、この胸の葛藤を打ち明けてしまうだろう。
それだけは避けたかった。
沙理は受理にこの心の内を知られたくはなかったのだ。
受理を愛する男のひとりとして、受理の前では強くありたい。
それが沙理のどうしても譲ることのできない男のプライドなのだから。
「なぁ、沙理………終わったら今夜ふたりで一緒に呑まへんか…？」
無言の沙理に痺れを切らしたのか、受理が沙理の耳元でそう告げた時、猪上達がスタジオに帰ってきた。
すると受理から醸し出されていた情事の前触れは消え去って、健全な空気、普段のスタジオに戻る。
「ほな練習始めまっせ～」
受理の顔色は陽気に引き締まり、バンドのメンバーを見渡して笑みを浮かべた。
それから程なくして新曲の練習を再開した。つい先ほどまでのやりとりが、まるで夢だったかのように溌剌と。
ひとり気がそぞろな沙理はコードの進行を追いながら、受理と過ごす夜のことばかり考えていた。
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