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●◎短編小説・曝し場◎●

11カサリズマ・メモリー 2/13:2003/05/05(月) 02:58
 少年は、親父を尊敬していた。ふざけてとぼけた性格だが、政府の偉い地位にいる悪魔狩りだ。彼は息子を自分の後継ぎにしようとして直々に鍛錬を施したが、少年自身もそれを強く望んでいた。悪魔狩りの免許は満十五歳にならないと取得できないので、十歳の少年はまだまだ狩場に立てない。早く親父のパートナーとして刀を振るいたいと、常々思っていた。
「ふー、っしょ」
 細く鋭く息を吐き、勢いをつけて立ち上がる。日向は暑い。近くに海沿いの大きな石碑が大きな日陰を作っているが、目指すのはそこではない。コンクリートの水際まで寄り、同じくコンクリートの対岸に向けて叫んだ。
「何見とんじゃ、ワレーッ!」
 大音声が空気に伝播し、じんじんと揺れ、風に拭い去られた。視線の向こうには、白いサマードレスを着た黒髪の少女が三角座りをしていた。
 少年はここに来ると、いつも対岸からこちらを見ている少女に向かって、こう叫んで挨拶することを習慣にしていた。水際ぎりぎりに行儀悪い姿勢で腰掛け、少女と向き合う。
 初めて見かけた時、彼女は辺りはばかることなく泣いていた。やはり晴天の下で、やはりこの場所で。少年が大声で呼びかけると、少女は驚いた様子でこちらを向いた。少年はずれた眼鏡を直しつつ見やり、可愛いと言うよりは、綺麗な顔立ちの娘だなと思った。その日一日中、泣き続ける彼女へ呼びかけ続けた。
 その次の日から、彼女はここへ通うようになった。やはり対岸で、やはり少年から呼びかける。しかし、少女からは一言も話してこず、父にしごかれる少年を見続けているだけだった。訓練が終わり、二人だけになって少年が話し掛けてきても、はいと頷くか、いいえと首を振るか、さようならと立ち去るか以外の動作をしない。だが少年は、自分の言葉で少女が怒ったり笑ったり、素直な反応を示すのが楽しかった。


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