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●◎短編小説・曝し場◎●

10カサリズマ・メモリー 1/13:2003/05/05(月) 02:57
 見上げる度に青い空と、それを映して青い海。
 少年の街は、そんな清々しくも野暮ったい風景を持っていた。少々北に位置するここは、真夏の今でも過ごしやすい。
「こせがれ、何を緩んどんじゃ。あと少しや、しっかりせえ」
 少年の父が呼びかける。確かに気候は穏やかだが、太陽の照りつける日中に腹筋運動を連続五十回させられれば、汗だくにもなろうというものだ。少年は歯を食いしばり、顔を赤黒くしながら引きつった腹筋をギリギリと上げていく。
「百五十!」
 達すると同時に背中を倒し、大の字になって開放感を味わう。息苦しいが、口を開けると乾いていけないので、鼻から大きな音を出して無様に呼吸した。
 その時、見あげている蒼穹を背景にして、視界の横合いから黒い粒がふっ、と出現した。大きくなるそれは、親父が投げ上げた石くれだった。
「ぐわっ」
 少年は素早く横たわって一度は避けたが、既に二度三度の追撃が迫ってきていた。一回転して仰向けになり、仕方なく手で受け止める。凶器には尖ったものが選ばれていて、受ける手のひらに突き刺さって痛い。勢いよく起き上がる。
「少しぐらい休ませてくれたってええやろが! 一セット増やしたんやから」
 激しい抗議を向けた先には、拳大の石を拾おうとしている親父がいた。
 ――殺す気か。
「あれ、そやったかな。ほなら、さっきの苦しげな顔は」
「オーバーワーク気味や。……まさか、回数間違うたんか?」
「さあ、休憩休憩」
 踵を返して去ろうとする親父に石を投げつける。腹に力が入らず腕力のみの投擲だが、命中すれば充分に大怪我する勢いだ。が、親父が振り向きざまに腰から突き出した刀の柄頭によって、あえなく弾き落とされる。洗練された動作だった。
「お詫びに、休憩は五秒伸ばしたる。一時間五秒後にはここにおれよ」
 親父は噛み合わせた白い歯を見せ、堂々と去っていった。


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