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第8回電撃short3

271/3:2003/05/02(金) 20:27
便乗してさらしてみます。
 
 早々に大学への入学も決まり受験勉強も終わって、僕の前には膨大な時間が広がってい
る。友人たちの多くはまだ受験戦争の真っ只中にいて、僕にだけ時間があった。
 誰も遊びに誘うことができず、かといって家でだらだら過ごすのも今の僕には耐えがた
かった。理由は簡単だ。半年前、まだ十歳の弟が交通事故で死に、両親は抜け殻のように
なっているのだ。家の空気は鉛より重くなっている。あんなところで一日過ごしていたら、
きっと僕は窒息してしまう。
 無論僕だって、弟の死にショックを受けていないわけではない。しかし両親と僕とでは、
悲しみの表し方が違うようだ。僕は両親のように、そこまで悲しみに打ち沈んで、精神を
壊してしまいたくはない。弟がそんな姿を見て喜ぶとも思えない。
 でも今のこの家に長くいたら、僕もそのうち両親のようになるんじゃないかと思われた。
それは嫌だった。僕は弟の死をしっかり受け止めて、地に足をつけて生きたい。
そこで僕は、両親に旅行をしたいと申し出た。一人旅だ。高校最後の思い出にもいいだ
ろう。とにかく家を出たかった。
 両親は虚ろな表情で簡単に了承した。分かっているのか疑問だったが、それでも僕は自
分の気持ちを優先させ、旅行を決定した。
 行く先は西にしようと決め、京都は定番だから、広島辺りにまで足を伸ばしてみようと
思った。世界遺産も回ってみたい。
 出発の日、母親に挨拶しても、返事は返ってこなかった。僕は溜め息をついた。
 元より確固とした計画を立ててはいず、案の定のんびりとした旅になった。
 しかしのんびりとしたのがいけなかったのだろうか。それとも両親を家に置いてきた事
に対する後ろめたさからだろうか。流麗な姫路城を眺めても、僕の胸の内に去来するのは
弟の事ばかりだった。
 果たして僕は、弟の事を好きだったのだろうか?


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