●おまえら男ならヒカルたんハァハァだよな?Part47○ (156レス)
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148: 2006/08/03(木)02:04 AAS
パッチワーク 2017年7月 加賀 その3

 昨日オレは七局目までもつれ込んだ名人戦の取材で伊香保にいた。そのころ、オレの実家ではバツイチだった姉貴のところに生まれた姪の命名式をしていた。来月には身内だけで集まって結婚式もある。親たちが絶対に来いと言わないのを見越してオレはその日も仕事を入れた。籍は姪の生まれる前に入れてある。婿養子になったのは筒井だった。

 姉貴で十二代目の実家の家業は江戸料理の料亭。跡継ぎは代々女が婿養子をとることになっていた。姉貴も27歳のとき婿養子をとったがお袋と姉貴の気の強さに一年も経たずに逃げ出された。姉貴が三十を超えたあたりからお袋がオレに見合い話を持ってくるようになった。

 中学時代から俺の家に出入りしていた筒井は板長に気に入られてオレの留守にきた時などよく板場でオレのことを待っていた。だから高校卒業後に調理師学校へ進学し板長の紹介で板長の師匠筋の料亭に就職したのも分かる話だった。そこで下積みをした後、同じ師匠筋の老舗に移り三年経った一昨年オレの実家に移って来た。

 五年前住み込みの修行が終わった筒井と一緒に暮らすための部屋を探し始めたとき壁になったのは家賃と俺たちが男同士ってことだった。上がりが終電の後になることもある筒井が自転車で通える距離でまだぺーぺーのカメラマンのオレと筒井が出せる家賃の上限は低かった。何カ所か回ったがこっちが気に入っても家主から断られることも何回かあった。その日も何軒か回ったけれどうまく行かなかった。最後に行ったのが葉瀬中のそばのアパートだった。目印は庭に蔵のある家といわれてあそこかと土地勘があった。家主は出かけてるかもしれないが声はかけて欲しい、留守にする時は部屋の鍵はあけておくので勝手に見て欲しいと不動産屋に言われて行った先は母屋・離れに蔵とアパートとそれぞれの建物はしょぼかったがこのあたりでも広い敷地だった。母屋の玄関先で声をかけたら出て来たのが腹のでかくなった藤崎で家主は進藤のばあさんだった。あれから5年たった。離れに進藤と塔矢、母屋に藤崎とチビ、アパートの一階に三谷と金子ともうひとりのチビ、二階の隣に夏目と津田となぜか回りは葉瀬中囲碁部の奴らばかりだったがオレたちは幸せだった。去年までは。

 去年の十月、筒井が体調を崩して仕事を一週間休んだ。その後も調子が悪かった。十一月姉貴がオレたちのアパートに来た。子供ができたから責任を取れと筒井に言う為に。それからはオレにとっても筒井にとっても悪夢だった。筒井からようやく聞き出したことの次第は翌朝の仕入れ当番の為に泊まり込んでいた筒井の寝込みを姉貴が襲った。姉貴が筒井を好きなのは知っていた。姉貴だけじゃない、お袋も親父も板長も筒井が気に入っていた。中一で同じクラスになり家へ初めて連れて行ったときみんな驚いた。筒井はオレにカメラと将棋を教え前の冬に山で死んだばかりのお袋の弟にそっくりだった。姿形だけじゃない気性もそっくりだった。違うのは将棋じゃなく囲碁が好きなことくらいだった。
 
 忙しい家の中で叔父貴だけがオレたち姉弟の相手をしてくれた。気の強い親父とお袋はよくぶつかっていた。お袋や親父が愚痴をこぼせるのは叔父貴だけだった。その叔父貴が急にいなくなって家の中の歯車が狂いだしたと皆が思ったとき叔父貴にそっくりの筒井が現れた。皆が筒井を叔父貴の身代わりにした。オレは同級生という特権をフルに活用した。店のある日は相手ができない、筒井に会いたいから店の定休日につれてこいという親のいい分はたいてい無視した。オレの対抗馬は姉貴だった。あのとき姉貴の相手をさせてたらこんな悪夢は見なくてすんだのか。

 親父さんを家の前でおろした。親たちにはオレたちのことは何も言ってないが三十すぎた男同士の同居がどう見られるか分からない訳じゃない。頼むから筒井にそっくりなその目で哀れむようにオレを見ないでくれ。

 おい、進藤なんでお前は塔矢の子を産んだ藤崎を憎まないでいられるんだ。塔矢なぜお前はチビを平太をかわいがれるんだ。

 オレの、オレたちの悪夢はいつまで続くんだ。
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