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【腐女子カプ厨】巨雑6441【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net (1002レス)
【腐女子カプ厨】巨雑6441【なんでもあり】 [無断転載禁止]©2ch.net http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/
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165: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:01:40.04 d 「あ」 そしてぎんっぎんに勃起していた筈のあいつの性器は急にしゅんと縮こまり、ずるりと俺の中から出ていってしまったのだった。 たまらず俺は、声を荒げた。 「馬鹿てめー俺ァまだイき足りてねぇぞ!なに萎えさせてんだ馬鹿!」 「ば、馬鹿お前、ダメ!そういう慎みのないこと言っちゃダメです!!」 「いい年こいた男に慎みもクソもあるか!」 「そりゃそうだけど、そうなんだけどぉぉぉぉ」 そうして益々ぐりぐりと頭を振る万事屋はとくれば、まるきり聞き分けのない駄々っ子なのである。 いい年こいてるのはてめーも同じだろうが、何してんだてめーはよ。 そう声にして呟くのも億劫だったので、代わりに俺はさっきからこっしょこしょと人の胸をくすぐってくる無作法な天パを雑に撫でてやった。 「なに。お前結局なんなの。俺をどうしてーんだよ、わけ分かんねぇ」 もしかすると溜め息交じりにぽろりとこの口から漏れたその疑問こそが、前みたいにしよう、と提案する前にあいつに聞いてやるべきことだったのかもしれない。 万事屋は少しだけ顔を傾け、俺の胸の上から上目にこちらを見つめてきた。 腫れぼったくなってしまった両目は拗ねたように細まってしまっていて、やっぱりどうしようもなく駄々っ子であった。 「……最初はよぉ。いっつもつんけんしてて、エロいことなんか興味ありません、したこともありません、みたいな澄ました顔してるおめーが、俺の下でひんひん泣いてエロみっともねぇ面見せてくれるのが嬉しかったんだよ」 エロみっともねぇってなんだ、みっともねぇって。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/165
166: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:02:21.67 d 「なんか俺に……なんていうの、人にあんま見せるようなもんじゃないとこ?弱みになっちまうようなもん?見せてくれたみたいで。 それにお前、俺がどんなことしてもほぼほぼ全部受け入れてくれたじゃねぇか。口では文句ばっか垂れてたけど。そういのも、俺ァ、嬉しかったなぁ……」 ぼそぼそと呟きながら万事屋は目を逸らし、しまいにはまた俺の胸に顔を埋めて隠してしまう。そのまま殆ど聞こえないような声で 「まあ俺も性癖が性癖だから、そういうの関係なしに楽しんでたところもあったんだけど」 と呟いていたような気もしたが、聞かなかったことにしてやった。 あいつの頭を撫でてやる手が余計に乱暴になってしまうのを止めることはできなかったが。 残念な天パはもはや爆発したようになっている。 「なのに……なのになんで今更、おめーのこと大事にしてやりたくてたまらなくなっちまったかなぁ」 「万事屋……?」 「……こんなに好きになるなんて、思ってなかったんだよなぁ」 「……!」 顔を伏せったままの万事屋が吐息のようなか細さで漏らした声に、頭を殴りつけられたような気分にさせられた。 喉の奥で息がつまり、心臓は今にも爆発せんがばかりにどくどくと跳ねる。 耳鳴りまでもを催して、なんだか今にも、頭のてっぺんからこの身体が壊れていってしまいそうだった。 だって俺は、それまで万事屋に好きだなんて言われたことがなかったのだ。 言って欲しいと思ったこともない。俺にしたってそんなこと、一度たりとも言ったことがない。 俺たちは互いにいい年をこいた男であり、身体から始まった関係をずるずると続けているろくでもない男でもあった。 好き、だなんてそんな可愛らしい言葉を振りかざすには、どうにも爛れていたのである。 だが実際あいつの声で俺に向かって放たれたその言葉に、どうしたことかこの俺は、どうしようもなく感じ入ってしまっていたようなのだ。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/166
167: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:03:02.60 d 嬉しいだなんてことを、思ってしまっていた、ようなのだ。 「……万事屋……」 どうしよう。 どうしよう。 どう、しよう。 「お前に散々っぱら変態行為働いてきたこと、すげぇ後悔しちまってるし、お前にろくでもねぇことばっか仕込んで……お前を風呂屋の姉ちゃん顔負けのとんでもねぇ淫乱にしちまったのが俺なんだと思うと、なんかちょっと死にてぇって思う。 やり直せるなら最初からやり直してぇよ。最初からお前のこと、もっと大事に大事に抱いてやりたかった。他人にこんな、ここまでずっぷりはまっちまうほど惚れたことなんて、ねぇから俺は…… やり方が、よく分かってなかった。いい年こいてこれだぜ、笑えてくるわ。いや笑えねーか、笑えねーな」 のそりと起き上った万事屋は、万事屋らしからぬ弱々しい声で万事屋らしからぬことを呟きながら、そっと俺の頭を撫でてくる。 その手はあまりにも、ぎこちない。俺にふり払われることを恐れてでもいたかのようだ。 そんなあいつの顔にはこの1ヵ月で見慣れてしまった、優しい大人の男の表情が張り付いていたのだが、それが今にも泣きだしてしまいそうな頼りない面に見えたのは、決して気のせいではなかった筈だ。 もしかすると俺が気付いていなかっただけで、この1ヵ月あいつはずっと、そんな顔をしていたのかもしれない。 そう思うとたまらなかった。たまらなく、心臓が痛かった。 「そんでこのひと月ほど、俺なりにおめーのこと大事にしてみたつもりだったんだけど。おめーも満更じゃないように見えたから、俺ァもう幸せで幸せでたまらなかったわけなんだけれども。でも、おめーはそうじゃなかったんだな」 「……へ?あ、いや……万事屋、俺は……」 「わ、分かってる。分かってるから、皆まで言うな!」 「むぐっ」 咄嗟になにか、この口先からあいつへ向かって飛び出してゆこうとした言葉があった。 しかしそれは俺の口をすっぽりと覆ってしまったあいつの大きな掌に、封じ込められてしまった。 「俺おめーに酷いことばっかしてきたもんな、今更好きになって貰えるとか都合の良いこと思ってねぇよ……いや、実はちょっと思ってるけど。あわよくばって思ってるけど!でも俺お前が今まで通り身体だけの関係でも続けてくれるってんなら、ほんと、それでも構わねぇし http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/167
168: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:03:41.08 d ……いや、ほんとは構いまくりなんだけどね!そんなん死ぬほど悲しいけど、でもお前がもう会ってくれなくなるより全然マシっつーか……ほんとはやだけど……」 「む、むぐぅ、うぅー!」 しょんぼりと項垂れてしまった万事屋は、しかし俺の口を塞ぐ手の力を一切緩めようとしなかった。よっぽど俺から「別に俺はそこまでお前のこと好きじゃねーし」だとか「おうこれからもよろしく頼むわ肉ディルド」みたいな台詞を聞くのが怖かったのだろうと思う。 冗談じゃない。誰がそんなことを言うものか。 大体俺は、そりゃそこそこの距離を取っていたかったし、必要以上にのめり込むのもごめんではあったものの、身体だけの関係だなんて。 そんなこと、思ったことも、なかったのに。 「ごめん土方時間ちょうだい。お前とのことちょっと、自分ん中で折り合いつける時間が必要そうだ。しばらく距離置いてみようぜ、その間に俺またお前に喜んでもらえるようなプレイも考えておくから。 恥ずかしかったり痛かったりするやつがいいんだよな、お前?……ほんとはもう、そんなことしたくねーんだけどね!」 「ぷぁっ、お、おい、万事屋!」 ようやく俺の口を解放した万事屋は、慌ただしくベッドから滑り降りて下着を履いた。 そして脱ぎ散らかした服をかき集め、パンツ一枚のままバタバタと部屋の出入り口へ小走りに駆けて行った。 「……っ!」 ちょっと待て、待ってくれ、何を話せばいいのかも分からないが、とりあえず俺の話を聞いてくれ。 あいつを引き留めるために、俺も急いで起き上った。 しかしその瞬間無理に開かれていた股関節に鈍痛が走り、一拍動きが遅れてしまう。 それでも、とベッドの上から右腕を伸ばしてみるも、指先はあえなく空を切り、その勢いを殺せぬまま俺は前のめりに倒れこんでしまった。 視界の外から、がちゃり、とドアノブが捻られる音がした。 「――な、土方。気が向いたら、また俺とデートしてくれよ。1ヵ月くらい前にも、一回してくれただろ。お前はかったるかったかもしれねぇけど、俺は……その、割と、楽しかったから。……じゃーな、色々整理ついたらまた、電話するわ」 そしてぱたりと、ドアが閉じられる音が続いた。 「馬鹿かてめーは。俺も楽しかったわ。見てりゃ分かんだろ、そんくらい」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/168
169: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:04:12.44 d ベッドの上で思わず漏らしてしまった呟きは、誰に聞かれることもなく暖房の音に紛れて消えた。 「……、」 現状を維持したいなら俺はあいつを追うべきではなかったし、あいつの気持ちの整理が付くまでこちらから連絡を取るべきでもなかった。 そうすれば全てが丸く、俺が望む形に収まるのだ。適度な距離に適度な理解。 のめり込み過ぎてはいないものの、情が全くないわけでもない、今までそうであった筈の関係に。 だがそれは、俺ともっとどうにかなりたいのだと。 半分泣いてるような面で告白してきたあいつの気持ちを無碍にしてまで、維持しなければならないものであるのだろうか。 あいつにのめり込むのが怖いだなんて理由であいつを傷付けっぱなしにするくらいなら、ちょっとくらいのめり込んでしまってもよいのではないのか。 そんな理由のせいであいつを追うこともできないのなら、そんなものなど捨ててしまってもよいのではないか――そんなことを、どうやら俺はそれなりに、本気で思ってしまっていたらしかった。 怖いけれど。これ以上あいつとの距離が狭まり過ぎて、頭の中があいつでいっぱいになってしまうかもしれないってのは、とんでもなく恐ろしいことではあるけども。 でもあのちゃらんぽらんをあそこまで追いつめてしまったのは他ならぬ俺なのだ。 俺なのだ。 申し訳ないのだと思ったし、後悔をしてもいた。そんな感情を抱いてしまう程度には、俺だってあいつのことを―― 「……万事屋、……」 いい加減、腹を括る時がやってきたのかもしれない。 ここまでぐだぐだとあいつのことばかり考えちまってるんだ、こんなもんもうとっくに、のめり込んじまってるようなものだろうに。 俺はベッドに俯せに寝転がり、とりあえず一服、煙草を吹かした。 今からでもあいつを追ってみようかな、と思わないでもなかったのだが、そこは勇気の不足やらなんやらの問題で実行に移すことはできなかった。 あいつが俺とのことに折り合いをつける時間を欲しがったように、俺にだって心の準備をするための時間が必要だ。 そもそもその晩のうちにあいつを追うことができるような俺であったなら、端からこんなことになどなっていなかったに違いないのである。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/169
170: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:06:27.02 d そんなこんなで、現在である。 時刻は午後6時少しすぎ。こんな時に限って攘夷浪士どもは大人しく、接待の予定なぞも入っていない。 近藤さんまでもが「休める時に休んでおけよ」と変に気を回してきて、夜に片付けようと思っていた書類を取り上げていってしまう始末だ。今夜の俺は、もの凄く暇なのだった。図ったように、お誂え向きに。 「……」 今日一日、俺は何度かあいつに電話をしようと試みた。試みただけで、まだ実際に掛けられてはいなかった。 いくらディスプレイに表示された番号を睨み付けたところで勝手に電話は繋がってくれないし、都合よくあっちから掛かってくるということもない。 つまりあいつと話そうと思うなら、俺は俺の意志で通話ボタンを押さなければならないのだ。 しかしこれが中々勇気がいる。上手くあいつと話すことができるのだろうか。余計に話が拗れてしまうのではないだろうか。 胸の中を占める何とも言えない不安たちが、通話ボタンの上に乗っかった指先を鈍らせてしまっていた。 だがいつまでもこんなことをしていても仕方がない。時間が解決してくれるようなことでもないのだ、腹を括ると決めただろう、土方十四郎。 俺は目を瞑り、渾身の力で通話ボタンを押し込んだ。 「……、」 無機質な通話音に緊張を煽られながら、数度、生唾を飲み込んだ。早く出ろ、いい加減口から心臓が飛び出してしまいそうだから早く出ろ。 そう念じながら待って、待って、とにかく待って――何故だか正座をして数分間、待ち続けていたのだが、通話音が途切れることはなかった。結局あいつは出なかったのだ。 避けられているのだろうか。だがあの家の電話にはナンバーディスプレイなんて洒落たものは付いていなかった筈であるし、あいつが出なかったところでメガネなりチャイナなりが受話器を取るのだろう。 それもないということは、きっとあそこには今誰もいないのだ。珍しく、真面目に働いているのかもしれない。 それとも時間的にもう店を閉めて、飲みに出ていってしまったのだろうか。 「……っ」 電話が繋がらないというのなら、あとはもう―― http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/170
171: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:07:11.60 d 「あれ、副長お出掛けですか?飲みにでも?いいなぁ、たまには俺も連れてってくださいね」 「ああ?あぁ……連れてって欲しけりゃちったぁ真面目に働けよ」 「俺はいつだって真面目ですよ。……ていうか副長、今から行くのって本当に飲み屋ですか?」 「は?」 「なんか、出入りの時みたいな顔してますけど」 「ああ……まぁ、似たようなもんだな」 「休みの時にまで無茶なことばっかせんでくださいよ」 「しねーようるせーよ」 「あいてっ」 会いに行くしか、ないではないか。 最近小言がうるさい山崎にチョップを食らわせてから、俺は屯所を飛び出した。 あいつが家にいる保障などなかったが、それでも大人しく何もせずにいるのは嫌だった。 昨日のあいつがみっともない顔でみっともない告白をしてきたように、今夜は俺が、みっともなくてもいいからあいつを求めたかったのだ。 よっぽど焦っていたのだろうか。なにやら今夜はいやに寒いな、あれ、そういえば俺襟巻巻いてないぞ――ということに気付いたのは、かぶき町のけばけばしいネオンが遠目に見える頃合いになってからのことだった。 「あ」 それからほんの数分後。 むき出しの首を庇うべく上着の衿を寄せ、背中を少々丸めながらかぶき町一番街の門を潜ったところで、俺は人混みの中でも一際目立つ銀色の頭を発見した。 いかにかぶき町であるとはいえ、あんなふざけた頭をしている輩はそうそういない。 もちろん、俺が今から会おうと思っていた万事屋である。 手にはぱんぱんに食料が詰まっているとおぼしきビニール袋を提げられていて、両隣りにはメガネとチャイナ。 いかにも買い物帰りといった風情であった。 珍しく小金が入ったのだろうか、いや、今はそんなことどうでもいい。 「あっ」 俺があいつを見つけたように、あいつも人混みの中から俺を見つけたようだった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/171
172: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:07:51.83 d 言い逃れがきかないくらいばっちりと、目が合った。その途端、反射のようにごくりと一度、喉が鳴る。 心臓の音もうるさくて、多分頬はそこそこ赤くなっている。顔が熱いから、鏡を見なくても分かる。 一度深く息を吸ってから、俺はあいつに向かって片手を挙げた。 そして万事屋、と、あいつを呼――ぼうと、したのだが。 「――!?」 「あ、ちょっと銀さん!どうしたんですか急に!」 「ほっとけヨ新八、どうせトイレアル」 あいつはひらりと身を翻し、そのまま目にも止まらぬ速さでどこぞへと走り去っていってしまったのだった。 あまりにも豪快に、傷付いただなんて思う暇もなく、俺は避けられてしまったのである。 「あれ、土方さん?珍しいですね、こんな時間に会うなんて」 「……速くね?人間ってあんな速く走れるもんなの?」 「へ?ああ……あの人はほら、身体しか資本がない人ですから。あれくらい動けてくれないと困るっていうか」 「ああ……」 去ってゆく背をなすすべなく見送ることしかできなかった。今からではもう、追っても追いつけないに違いない。 「……今から夕飯か?」 「はい、今日は鴨鍋です」 「肉か。珍しいな」 「はい肉です、うん週間ぶりのお肉です。久々に依頼が入って、さっきまで働いてたんですよ。で、その場で依頼料ももらえたので」 メガネは頬をほんのりと上気させ、ふへへと口元を緩ませた。 脳内ではもう既に、うん週間ぶりの肉にありついているのだろう。 奴らの極貧ぶりはとっくに知っていたことではあるのだが、目の前でこんな顔をされては改めて不憫にも思えてくる。たらふく食って大きくなれよ、メガネ小僧。 「オマエ、銀ちゃんに用があるんじゃないアルか」 「へ?」 「あ、ちょっと。神楽ちゃん」 小さな子供の甘ったるい声は、しかし妙にドスが聞いていて重々しい。 思わず声がした方を見てみれば、そこには掬い上げるようにじっと俺を見上げるチャイナがいた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/172
173: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:08:35.00 d なにやら慌てた様子のメガネに一瞥をくれることもなく、チャイナはずい、と俺との距離を詰めてくる。 「昨日銀ちゃんと会ってたの、オマエなんだロ」 「え?あ、ああ、まぁ……うん……?……なに、あいつわざわざ俺と会うとか言って出掛けてんの?」 「んなもんわざわざ聞かなくても分かるアル。銀ちゃん、めっちゃうきうきしてたもん。オマエと会う時はいっつもそうヨ。ダダ漏れアル」 チャイナはやれやれと言わんばかりに肩を竦め、メガネは曖昧にははと笑った。 「いつもは帰ってきてからもふわっふわのうっきうきヨあの天パ。よっぽどオマエと会うのが楽しいんだロナ。でも昨日は死ぬほどしょんぼりして帰ってきて、今日も一日中へこんでたアル。 オマエ、とうとう銀ちゃんのことふったのか?新八もそうなんじゃないかって言ってたヨ」 「あ、い、いや土方さん、別に銀さんは何も言ってませんからね。誰が好きだとか誰と会ってるだとか、そういうの一言も言ったことないです。ダダ漏れのもろバレだから勝手にこっちが察しちゃっただけで」 「そ、そうか……そっちの方がなんかアレなようにも思うんだが……」 というかこんな子供たちにまで察せられてしまうほどあからさまだったあいつの好意に、どうして当の俺が気付くことができなかったのか。 もしかすると一番アレなのは俺か、俺なのか。 「どうせフォローしにきたんだロ」 チャイナの声はいやに断定的だ。俺がそうしに来たのだと疑っていないようで――反面、頼むからそうであってくれと懇願しているようでもある。 挑発的に俺を睨みつける双眸は、どことなく必死であった。 よくよく見てみれば、隣りのメガネも似たような目で俺を見ている気がしないでもない。 「そう、だな」 この子供たちはあいつをマダオダメ人間働けと日常的に罵る裏で、なんだかんだ心からあいつを慕っているし、調子を崩せば心配もする。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/173
174: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:09:11.63 d あいつの傍にはそんな人間たちがちゃんといてくれるのだというその事実が、何故だか無性に嬉しかった。 この気持ちはどこから来るものなのだろう――そういうことに決着をつけるためにも、俺は、 「……会いに来た。あいつに」 俺がそう言うと、チャイナとメガネはあからさまではないものの、しかしほっと息を吐いた。 うっかり口の端が緩んでしまいそうになるのを、唇を噛んでやり過ごす。 「でもお前ら、今日は鍋なんだろ。楽しみにしてたんじゃねぇのか」 「鴨は逃げませんよ。明日まで持ちますし」 「デモナー、デモナー、わたし今日は鍋食べる気満々だったからナー。カモがダメなら代わりにカニでもいいから食べたいナー、チラッ、チラッ」 「たかり方まであいつに習ってんのかよ、てめーは。ほら」 「キャッホー!!」 「なんかすみません、たかっちゃったみたいで。ていうかたかっちゃって」 カニでも牛肉でも好きなものをたらふく食べさせてやれる程度の賄賂を渡すと、メガネは申し訳なさそうに頭を掻きながらもがっしりと札を掴み、チャイナは両手を挙げて飛び跳ねた。 「持つべきものは高給取りの知り合いネ!銀ちゃんとは大違いアル!この前トシの写真見ながら名前呼ぶ練習してるの見ちゃった時、銀ちゃんはたったのプリン3個でわたしを黙らせようと、」 「こ、こらァ神楽ちゃんんん!プリン貰っちゃったんでしょ!なにすべっと一番ばらしちゃいけない人にばらしてるの!それにあの甘党にとっちゃプリン3つは銀貨3枚分に相当するんだから、あんまりけなしちゃいけないよ」 「そっかー、それもそうアルな。ごめんネ銀ちゃん」 「えっ、え、なに?お前らの言ってること何一つ理解できないんだけど」 銀貨3枚分?日本円で換算してくれねぇといまいち価値が分からねぇよ?いや、いやいやそっちの方は心底どうでもよくて―― 「名前呼ぶ練習って、」 「ナニ?ナニソレ何の話?わたしそんなの知らないアルよ?それよりオマエはさっさと家に行くヨロシ。わたしたちはカニアル!行くヨ新八、ぷりっぷりのカニがわたしたちを待ってるゼ!」 「それじゃあ土方さん、銀さんのことよろしくお願いしますね。あの人、今日1日ずっと心ここにあらずって感じで……あの人があんなんじゃ、ぼくらも調子でませんから。カニ、御馳走様です」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/174
175: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:09:50.19 d 「……おう。腹いっぱい食べてこいよ」 「はい!」 「任せろアル!」 カニを目指して駆けてゆく子供たちの背中が人混みに紛れてしまうまで見送ってから、俺も万屋への一歩を踏み出した。 ほどなくして、俺は万事屋の玄関前へと辿り着いた。なんの障害があるわけでもなく、あまりにもあっさりと。 横開きの戸の向こう側は、うっすらと明るいようだった。どうやらあいつはちゃんと家に帰っていたらしい。 もしかすると適当な飲み屋にでも逃げ込んでいるのではないか、と思わないでもなかったのだが。 「……」 インターホンを押そうかと思ったが、やっぱり止めた。 代わりに俺は、寒さにかじかむ指先を叱咤して玄関の戸を引いた。案の定鍵はかけられていなかった。 なんとなく、そんな気がしていたのだ。 あいつはチャイナとメガネが帰ってくると思っているのだから、開いていて当たり前だろう――だとか、そういう理屈を抜きにして、なんとなく。 ほう、と小さく息を吐くと、その途端背後から冷えた風が吹き付けて、中途半端に開いたままの戸と俺の背中ががたがたと震えた。 慌てて俺は玄関の中に滑り込み、少々乱暴に戸を閉めた。土間にはあいつの履物が、廊下には鴨その他諸々が詰め込まれたビニール袋が、それぞれ打ち捨てられるように転がっている。 俺はビニール袋を拾い上げ、この家の居間兼応接間へ続く戸を開けた。 テレビの点いていない静かな部屋のソファーの上に、あいつはいた。 開いたジャンプを顔に乗せ、長い手足を投げ出すよう仰向けに寝転がっているのである。 「おい」 声を掛けても、あいつは身じろぎ一つしなかった。だが、起きていることなど分かっている。狸寝入りなどが通じるものか、馬鹿野郎。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/175
176: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:10:27.70 d 「俺は、身体だけの関係だなんて思ったことねぇぞ。それなりの気持ちがなけりゃ、野郎相手に股ァ開けるわけないだろうが」 万事屋はまだ、動かない。 下手な狸寝入りを続けている。早くそのジャンプどけろ馬鹿。 沸々と湧き上がる焦燥感と同調するように、右手に下げたビニール袋ががさりと小さく音を立てた。 「お前に……大事にされてないと、思ったこともない。確かにそりゃお前は酷い変態だった。俺もそろそろ三十路になるが、あんなことをされたのは初めてだ。でもそれはただ、お前がああいうプレイが好きなんだってだけの話だろ。 それが何で俺を大事にしてこなかったことになるんだ。てめーはいつも、俺が会う約束破ってもひとつふたつ文句言うくらいで、あんまり責めたこともなかったじゃねぇか。待ち合わせに遅れた時もだ。どれだけでも待っててくれたし、責めなかった。 詫び入れろっつってその辺の物陰でしゃぶらされたことはあったけどな。そういうろくでもねぇところはあるが、でも悪い奴じゃねぇよ、てめーは」 遅れてきた俺に、遅ぇよ馬鹿お仕事お疲れさん、つって缶コーヒー投げて寄越してくれたことも何度かあった。 一発ヤり終えたあとはめんどくせぇだのなんだの言いながらも、必ず俺の身体の後処理をしてくれた。 ぼんやりと寝転がる俺の頭をがしがしと撫でる手は、乱暴なのになんだか妙に、優しかっただろう―― あいつとの間にあったことを思い出していると、沸々と込み上げてきたものがあった。思わず俺は俯いた。 「……お前めちゃくちゃ俺のこと、大事にしてんじゃねぇか」 そこまで――そこまでのことを、ちゃんと分かっていたくせに、どうして俺は万事屋を「身体だけでもいいから」なんて言わせてしまうまで追いつめてしまったのだろうか。 後悔と焦燥が止まらなかった。 手を握りしめると、爪の先が掌に食い込んでとても痛い。 けれど昨日のあいつはこんなもんとは比べ物にならないくらい、もっと痛い思いをしていたに決まっている。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/176
177: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:10:59.69 d あいつはろくでもないし金もない、減らず口と揚げ足取りが標準装備のいけ好かないドS野郎であるのだが、でも不器用で変なところが繊細で、転がり込んできたガキどもを口にはせずとも大事にしている男なのだ。 優しい、男なのだ。 そんなあいつにのめり込んで、のめり込まれて――そうやってあいつと行き着く先が、恐ろしいものであるわけが、ないだろうに。 「妙な線引きをしようとして悪かった。お前の気持ちから逃げようとして悪かった。誤解させたことも悪かったと、思ってるから……だから、身体だけだとか、そういうことは……もう言わないで……思わないで、くれないか……――、」 不意にぎい、と、床がきしむ音が鳴った。そして俯いたままの視界に、あいつの生白い爪先が現れる。 俺は首がもげそうになる勢いで顔を上げた。こっちへやってきた万事屋が俺を抱き締めたのは、それと殆ど同時のことだった。 「昨日俺、時間くれとか言ったよな。でもお前が会いに来てくれて、正直死ぬほど嬉しかった。お前の顔見た瞬間に頭ん中がぱーんってなっちまって、思わず逃げたけど。でも本当に嬉しかったんだよ、俺ァ」 「そうかよ」 「もしかしたらお前が追ってきてくれるんじゃねぇかって、期待もしちまった。だから家の鍵も、かけられなかった」 「……置き去りにしてきたガキどもが帰ってくるからじゃねぇのかよ」 「あいつら鍵持ってるし……ていうかあいつら帰ってこねぇな。どこほっつき歩いてるんだ?」 「今頃大はしゃぎでカニ鍋食ってんじゃねぇかな」 「カニか……そっか、カニか……カニで売られたのか俺は……」 大きな掌が、そっと俺の後頭部を撫でてゆく。 表面をさわさわと掠めてゆくような、実にじれったい撫で方である。そんなに慎重に触らなくたって、俺は壊れたりなんかしないのに。 もどかしい刺激から逃れるべく目の前の肩口へ顔を埋めると、やっとあいつは指先に俺の髪を絡め出す。 恐る恐る、といった調子であったが、でも、それでいい。そういうのが、いい。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/177
178: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:12:26.23 d 「俺ァよ、土方くん。今日みたいに結構すぐに舞い上がっちまうし、期待してはそわそわわくわくしちまうし、こうやってお前が来てくれて、色々その…… 夢みたいなこと言ってくれて、そんだけで立ち直れちまうような、簡単な男なんだぜ。お前に本気で惚れちまってからだ。どうしようもねぇ男になっちまった。そんなでもいいのか、お前は」 「どうしようもねぇのは元々じゃねぇか。構わねぇよ」 「いやいやお前ね、もっとちゃんと考えなさいよ。お前、初めてした時のこと覚えてる?あん時俺、酔いに任せて酷いことしちゃったよね?ちゃんとケツ慣らしてやれなかったし、お前も初めてだったから、入り口切れて血ぃ出ちまっただろ。 お前はいてぇいてぇって泣きながら、本気で痛がってんのに、俺ァなんかもうそんなお前に滅茶苦茶興奮しちまって、ほら、あれだよ…… 土方トンネル開通記念〜とか言って、お前のケータイでぱっしゃぱしゃ写真撮りまくっちまったじゃねぇか。そんでがんっがんに、犯しちまったじゃねぇか」 「……ああ、そういやそんなこともあったな。改めて聞くとセンスがおっさん過ぎて悲しくなってくるな……。トンネルてお前。開通記念てお前」 「やめろ馬鹿人の傷口抉んな馬鹿。……で、お前はさぁ。初っ端からそんなろくでもねぇことしでかした男とよぉ、末永くお付き合いしてやってもいいって……本気で思ってくれるのかよ……」 「……」 初めてこの男と寝た時のことは、それなりに鮮明に覚えている。 季節もまだ春か夏かもはっきりしない、そういう曖昧な時期のことだ。 好きだと言いあったわけでもない。 優しい愛撫を施しあったわけでもない。 最初のあれは本当に酷い、酔いに任せたセックスだった。だった――のだが、多分あの時は俺もあいつも、肝心なところまでは酔いきっていなかったのだ。 最中にふと目が合った瞬間があった。その時に見いたあいつの赤い双眸は、熱とアルコールに浮かされながらもどことなく、底冷えするような正気の色を湛えていたのである。 それを見上げる俺の両目も、きっと似たようなものになっていたに違いない。 『……土方ァ、ちゅーしていい?』 『……いいけど』 そうして、初めてのキスをした。 殴り合いのようなセックスの中で、あのキスをしている最中だけ、俺たちの間に流れる空気は穏やかだった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/178
179: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:13:12.02 d 万事屋の言う開通云々は、それからほんの数分後にあったことである。 アホみたいに硬くなったちんこをろくに慣らしてもないケツにハメられて、こっちは出血してるってのにあいつは抜くどころか容赦なく腰を振るばかりであった。ハメ撮りのおまけ付きである。 とんでもなく痛かったし、人生で一番の屈辱を受けた気分にもなっていた。 結局あの時撮られた最悪の写メたちは、一枚一枚俺がこの手で削除した。本当にろくでもない思い出だ。 だたもう指先に力を入れることもできなくなって、されるがままになっていたこの身体を抱き締めた万事屋が―― 『処女じゃ、なくなっちゃったね土方くん、おめーも今日から一人前のオンナだよ、おめでとさん、っ、なぁ、こんな身体になっちまった、のに、っ、おまえ、これからオンナ、抱けんの? 抱けねぇよなぁ、俺なら恥ずかしくて抱けねぇよ、抱け、ねぇよなぁあ?っ、おまえは、これからはずっと……俺のオンナになってりゃ、いいの……俺とだけ、こんなことしてりゃ、いいの……な、土方、ひじかた……な……おれ、すげぇきもちい、よ……』 必死こいた声でそんなことを、耳へ直接吹き込んできたものだから。 俺は、この不器用なサド野郎がちょっと愛しくて可愛いのだと、感じてしまって――今にしてみれば本当に、あの時の俺は頭が沸いてたんじゃねぇかと思えてならないのだが。 『ん……しない……てめーとしか……しない……』 朦朧としながらもそんなことを呟いて、あいつの頬にキスをくれてやったのだった。 その時の自分の顔が安堵したように緩んでいたことを、そんなあいつに俺が笑いかけてやったことを、果たしてあいつは覚えているのだろうか。 「末永くって、いつまでだ?」 「は?そりゃ、おめー……添い遂げるまで、とか?」 「重ぇ」 「わ、悪かったな。言っとくけど、俺ァマジでそこまでの気持ちでいるんだからな。そこんとこもよく考えて返事しろよお前。一回俺んとこに落っこちてきたら、もう二度と離してなんかやらねぇぞ」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/179
180: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:14:32.16 d あいつの両肩に手をついて、少し距離を取りつつ顔を上げた。 久しぶりに見たような気のするあいつの顔は、眉と眉間の距離が狭まったとてもらしくない表情に強張っている。 「……馬鹿」 そんな真面目くさった面で至近距離から見つめていられると、気が変になってしまいそうになる。 俺はもう一度あいつの肩口に顔を埋めて、そのまま 「上等だ」 と呟いた。口の中で呟くような、えらく小さな声になってしまった。 恥ずかしかったのだ。こんなもん、プロポーズをされてるみたいなものじゃないか。 受け入れてしまったようなものじゃないか。 あいつに聞こえていないなら、それでもいいとさえ思った。 だが十数秒の間を置いたのち、あいつはがしがしと俺の頭を掻き乱しながら、 「馬鹿でごめんね。これからも、よろしく」 なんてことを、これまた聞かせるつもりがねぇのかってくらい小さな声で告げてきたので―― 「上等だ」 顔を上げて、今度はちゃんとあいつの顔を見ながら、そう言ってやったのだった。 ここは喜ぶところだろうに、あいつがぽかんとした間抜け面で俺を見てくるものだから、どうにも吹き出さずにはいられなかった。 それからどうにかして正気に戻り、噛み殺しきれない笑いにむずむずと口元を歪ませた万事屋が 「なぁ、お前夕飯まだ?あれだったら家で食ってかね。簡単なもんでよけりゃ、俺作るし」 というので、今日はそのまま夕飯を馳走になることにした。 「待ってる間に風呂入ってこいよ。着物も貸してやるから」 「……は?」 「あ、いやいや違うからね!食べたらヤっから先に綺麗にしとけよ、ってわけじゃねぇから!さっきから気になってたんだけど、おめー身体すげぇ冷てぇよ。髪まできんきんに冷えてるし、顔も真っ赤だし。ちゃんとマフラー巻いて来いよ馬鹿」 「……おう」 別に食べたらヤるんでもいいんだが――いや、こんなだから身体目当てだと誤解されてしまったのだろうか、なんてことを思いながらも、俺は言われるがまま風呂を借りた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/180
181: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:15:20.52 d どうやらこの身体は本当に冷え切ってたようで、さして温度が高いわけでもないのだろう湯船のお湯が刺さるように痛かった。 ――もしかして1ヵ月前のデートらしきものの時も、寒かったから顔が赤くなってしまったのだ、とでも言っておけば、あんなに必死こいて襟巻を引っ張り上げずに済んだのではないか。 気付かなくてもいいことに気付いてしまった瞬間に、俺は頭まで湯船の中に沈んだのだった。 「遅かったな。ちゃんと暖まってきた?」 「……おう」 「こっちも今、できたとこ。味噌汁よそってくっから、座って待ってて」 「…………おう」 「……」 「……んだよ」 「……なんか、想像以上にそそるな」 「うるせー見てんじゃねぇよさっさと味噌汁持って来い」 「照れてんじゃねーよ、可愛いけど」 あいつが用意した着物とは、見慣れた白い着流しだった。 こんなもんただの着物だ、とは分かっているのだが、あいつが年がら年中来ているものだと思うと落ち着かなくて、気恥ずかしい。 あいつがにやにやとした目で見てくるから尚のことである。 どうにも浮つく気分をどう消化すればいいのか分からぬまま、俺はソファーに深く腰掛けて味噌汁を待った。 他の料理は既に並べられていた。 肉や野菜を炒めたものに、ちょっとしたつまみものに、といった簡単な家庭料理たちだ。鴨は、明日の夜にでもガキどもと一緒に食べるのだろう。 「おまたせ。あー腹減った、早く食おうぜ」 数分もしないうちに、両手に味噌汁の茶碗を持った万事屋が居間に現れた。そして揃っていただきます、と言うでもなく、無言で食事が始まった。 時計の音と、箸と食器がぶつかる音だけが小さく響く、やたらと静かな食卓だ。 こいつと今更何を話せばいいのか、というのは1ヵ月前にも懸念していたことではあるものの、あの時は顔を合わせてしまえば心配する間もなくぽんぽんと話せていた。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/181
182: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:16:00.80 d だが今日は。今日は何をどう話せばいいのかが、本当に分からない。 万事屋も同じようなことを思っているのではないか。 さっきからちらちらと視線を寄越して来たり、何か言いたげに口を開いたと思ったら難しそうな顔で白米をかっ込んだりと、あからさまに落ち着かない様子なのである。 結局会話らしい会話をしたのは、出された食事をあらかた平らげて、食後の一服をしていた最中だ。 「お前はさぁ。馬鹿みたいにまっすぐで、頑なで……ほんと頑なすぎて、たまにマジでこいつ馬鹿なんじゃねぇかって思うこともあんだけど、でもお前はそういう奴だからこんなにき、……綺麗なんだろうし、あんま言いたかないけどすげぇいい男なんだろうなって、思ってるよ。 だって俺は、おめーがそんなだから惚れちまったんだもの。お前が今のお前のまんままっすぐに生きていけりゃ、これほど嬉しいこともねぇんだって、んなことも、思ってる」 到底、素面で言うようなことではない。 その証拠に、万事屋は真っ赤である。 やっべーテンションに任せて言わんでもいいこと言っちまったー、って顔をしてる。 なんだか見ていられなかったので、慌てて俺はあいつから顔を背けた。 「な、すきだよ」 「……そうかよ」 「すき」 「聞こえてる」 「……する?」 「…………する」 俺が煙草をもみ消すのと、あいつが立ち上がったのはほぼ同時のことだった。 「風呂入ってくっから、ちょっと待ってて」 「ああ。することもねぇし食器でも洗っとくわ」 「馬鹿、お前一応客だろ。んなことしなくていーって」 「……てめーが変なこと言うから、ちょっと気ぃ紛らわせたいんだよ。落ち着かなくて仕方がねぇ」 「お、おお……おう……」 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/182
183: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:16:48.51 d どたどたと忙しない足音をかき鳴らしながら、万事屋が風呂場へと駆けてゆく。 その背を見送ってから、俺は重ねた食器を持って台所へ向かった。 蛇口から勢いよく飛び出す冷水が、火照った肌に気持ちがいい。 このまま冷えて、冷えて、頬のみならず全身にまで広まった赤みがちょっとでも引いてくれればいい。 無理か、無理だな。どうせあいつが戻ってきたら、また身体中のあちこちがかっかと熱くなるに決まっている。 「おまたせ!待った!?」 「は、早ぇよ馬鹿」 食器をあらかた洗い終え、居間へ戻ろうと廊下に出たところで、俺は万事屋に捕まった。 突如後ろから抱きしめられたのである。 どうにもあいつは服を着ていないらしかった。 それとなく背後を窺って見ると、案の定、パンツすら履いていない。 「風邪ひくぞ、下着くらい履いてこい」 「んな真っ赤なお顔で凄まれたってまぁぁったく怖くありませんー」 「赤くねーしてめーの方が赤ぇし」 「そりゃ俺は風呂上がりだから。つってもいつまでもこんなとこにいちゃ流石に風邪ひいちまうわ。早く行こ、土方」 「……ん」 あいつに手を引かれながら、俺は初めてあいつの万年床へ足を踏み入れた。 くたびれた敷布団の上に横向きに寝転がり、上には同じくくたびれた掛布団、そして後ろには同じく横向きの万事屋。 そんな体勢まま突っ込まれて緩く揺さぶられていると、若干眠たくもなってくる。 だが俺がうつらうつらとし始めたタイミングを見計らったように、万事屋は俺の上に乗り上げるように片足を絡め、中の深い場所を突いてくるので―― 「ひっ、ん……はぁあ、ぁ……ぁ、ん……」 中々寝かせてもらうことが、できないのだった。 「は、……は……ぅ……ん……」 至近距離から耳をくすぐる万事屋の吐息は、あいつが好む甘味のように甘ったるい。 そうやって喋る代わりに吐息ばかりを零しながら、万事屋はなにがしかの感情を叩きつけようとでもするように無言で腰を振っている。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/183
184: 名無し草 (スプッ Sdb8-xmDs) [] 2016/04/08(金) 06:18:06.98 d SM紛いのことをしていた時のように、激しいわけではない。 かといって、この1ヵ月のようにひたすら優しいわけでもない。 がっちりと拘束するように俺を抱き締める腕と足の力はとても強く、そこそこの勢いで叩きつけられる下半身に押されてひしゃげるケツが痛かった。 だがそれはこの1ヵ月散々された『優しい』抱き方よりも、ずっと優しく感じるのは俺の気のせいなのだろうか。ずっと、大事にされているように感じるのだって。 「ぁ、ぁ、ぁ……あっ……」 「……ふ、……ん、ん……」 あんなに嫌で怖かった穏やかなセックスが、今はなんにも嫌じゃなかったし、怖くなかった。 もっともっとして欲しくて、1秒でも長くこんな時間が続けばいいとすらも思っていた。 身体をを捩ると、中に入ったものに刺激される場所が変わる。 もっと中の色んなところを、もっともっと、他でもない万事屋の性器に触れて欲しかったので、俺は何度も腰を振った。 そのたびに掛布団がずり下がってゆき、シーツはくしゃくしゃに乱れてゆく。万事屋は、そんな俺に何も言わなかった。 何も言わずに俺の中へ硬い性器を出し入れして、合間に布団を直したり俺の頬や頭を撫でながら、たまにずん、と奥を突く。 たまらなく、気持ちがいい。 こんなのは、はじめてだ。 「っは、ぁ……!も、イく……あぁ、ぁ……イく……」 「ん……おれも、だすから……」 「あ……ぁ、あ……!」 「っ……!」 一際強くあいつの逞しい腕に抱きしめられながら、俺は布団の中で射精した。 似たようなタイミングで、あいつも俺の中に出したようだった。 「んぁ……あ、ひぃ……」 絶頂に達し収縮する内部を割り開くように、尚も万事屋は動きを止めない。 中に注がれたばかりの精液が、結合部から溢れていた。 それはあまり気持ちよくない筈の感覚なのに、どうしようもなく心地いい。とうとう涙を流しながら、俺はもうただ喘ぐことしかできなかった。 「あっあぁ……よろず、っ、……あ……!」 「うん、うん……土方……」 わけが分からなくなってゆく。頭が馬鹿になってゆく。 多分俺は今この瞬間、これまでの人生で一等ダメになるセックスをしているのだ。そうと分かっていても、不思議と恐怖はなかった。 http://shiba.5ch.net/test/read.cgi/nanmin/1460031797/184
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