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ガンダムヒロインズMARK ??I (152レス)
ガンダムヒロインズMARK ??I http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/
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142: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:03:51.95 ID:O+JwS4S5 投下します。 今回もエロ無しです。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/142
143: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:08:14.92 ID:O+JwS4S5 P−04中心岩体の港口から、1隻のジャンク回収船が出港した。 虚空に敷かれた誘導灯の連なりに導かれながら、やや太短いずんぐりとした船体が緩やかに進行していく。その全長は100メートルに満たない。 遠洋型のジャンク回収船としては小型の部類に当たるが、境界漁民の母船としては一般的なものだ。パイソン級宇宙貨物船90メートル型――俗にパイソン90と呼ばれる船級だった。 パイソン級貨物船は宇宙世紀の地球圏における、小型〜中型民生用宇宙船のベストセラーである。 その船体構造は、まず船首部に船の頭脳たる船橋(ブリッジ)と着岸腕に推進補機をまとめ、その後ろに貨物船の命である船倉部を繋げつつ、船尾に主推進機一式を置いて締める。 各主要コンポーネントを一直線に繋いだシンプルな構成だ。平面基調の船体外板は貨物コンテナ等の外付け繋留にも標準仕様のまま対応する。 パイソン級は月面上を含む多彩な領域での運行に対応しており、顧客の多様なニーズに応じて機関の換装から船倉部の延長・短縮に至るまで変更可能な柔軟性を有していた。 その普及度とカスタマイズ性の高さから、連邦軍の艦艇乗員たちからはパイソン級をして『民船界のサラミス』とまで称する声もある。 ――もっとも、宇宙戦闘艦としては間違いなく最多の生産数を誇るサラミス級をもってしても、その生産数の面ではパイソン級にはかなうはずもないのだが。 パイソン級の姿はどこか大蛇を思わせるが、パイソン90はその中でもかなり小型の構成だ。船倉部の全長は50メートル程度とやや短く、それも外観に寸詰まりでユーモラスな雰囲気を加えていた。 もしこの場にマコト・ハヤカワ准尉がいたら、その船影をして、かつて地球の日本列島に存在したという珍獣『ツチノコ』に似ている、とでも評したかもしれない。 大推力の機関部はより大型のパイソン級と共通のまま残し、船体を切り詰め小型軽量化することで、いざという時の逃げ足を稼ぐ――他用途への転用は効きにくくなるが、何より逃げ足の早さが求められる境界漁民の母船としては、それが重要なのだった。 進み行くパイソン90から、30キロメートルほど前方――艦砲有効射程前後の距離には、連邦軍『中央派』と思しきサラミス改級駆逐艦が浮かんでいる。合計10機近いRMS−106『ハイザック』が、その上下左右の甲板各所で立哨していた。 さらに遠方には、艇尾機関部の上下にRGM−79R『ジム?』とRGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』の混成4機を露天で載せながら、慣性のままゆっくりと流れていくパブリク改級哨戒艇の姿も見える。P−04周辺宙域の日常風景だった。 そして暗礁宙域でも、かつてのルウム戦役で破壊された廃コロニーの巨大な姿はひときわ目立つ。 軽く全長30キロメートルを超えるコロニーの壮大な巨体も、空気が無いため遠近感が働きにくい宇宙空間では、あたかもすぐ眼前を漂う小さなパイプ状の部品であるかのように人間の目を欺いてくる。 P−04のごく眼前に浮かぶように見えるそれらも、実は200キロメートルを超える遠方にあった。 P−04を離れ、境界宙域に向かっていくパイソン90級ジャンク回収船『ダーウィン』が、その船体をすっぽり隠すほどに大きい、コロニー本体から千切れて漂うミラー残骸の日陰側へと滑り込んでいく。 そのミラー残骸裏の日陰側に、張り付くように隠れていた4機のMSがあった。それぞれの頭部で、ゴーグルアイとモノアイの奥が鈍く光る。 「来た。……あそこに降りればいいんだよね」 同時に『ダーウィン』の前後に2分割された船倉区画の上面でも、後半部側のハッチドアが開きはじめた。 コロニー残骸の陰へ張り付いていた各2機のRGM−79R『ジム?』とRMS−106『ハイザック』がスラスターを灯すことなく、ただ大型デブリを手押しする反動だけで、その開口部へゆっくりと降下していった。 船倉内には女性らしき細身体型の軟式ノーマルスーツが一人、赤色灯を振って誘導している。幅も奥行きも20メートル程度の『ダーウィン』船倉ハッチへの、MS4機の同時降下はギリギリだ。 それでも4機は接触することもなく、鮮やかに着艦してのけた。鈍い着艦の衝撃とほぼ同時に、頭上でハッチが再び閉じていく。 パイソン90級は正式なMS運用能力を持った艦船ではないから、ジム?にせよハイザックにせよ、サラミス改級巡洋艦のMS格納庫内のように直立姿勢のまま格納されるわけにはいかなかった。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/143
144: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:09:50.66 ID:O+JwS4S5 この船倉区画、なにしろ高さの方も20メートルに遠く満たず、MSは直立できない。さらにMSベッドも無いので、そのままでは駐機時の機体固定も厳しかった。 だから機体が無人の間に船が急な加減速でも掛けたら、MSが船内を転げ回りかねない――そこまでの事情は、この4機に乗る4人の女性パイロットたちも事前に聞かされていた。 4機は同機種同士が隣り合うかたちで2機ずつ2列になり、両膝を床面に付けて座り込むような姿勢で着座した。幸いなことに側壁にはMS対応規格らしきグリップがあり、脚部の電磁石以外にもそこを掴むことで機体を固定することが出来た。 持ち込んできたビームライフルやザクマシンガン改は右手に握りこんだまま、盾も左腕に付けたまま。アイネ機が左手に提げて持参した予備の兵装や弾薬、部品入りのキャリーケースは、電磁石ユニットで壁面に固定した。 「とりあえず、これで良し……か」 『各員、異常なければ降機。船橋に集合』 「了解」 臨時編成の4機を率いる、いつも不機嫌そうな栗毛の美女、カリナ・ベルトラン軍曹からの通信に応答して、アイネ・クライネ伍長は真空の船倉へとコクピット・ハッチを開いた。 同乗していたマリエル・エイムズ軍曹とともにハッチの枠を力強く手押しし、その反動で『ダーウィン』の床へと降り立つ。 『クシナダ作戦』のため、『ダーウィン』へ送り込まれた5人の女性軍人が船倉内に揃ったのを見届けると、カリナは鷹揚にヘルメットの顎で船橋方向を示した。 まずは船橋に向かい、先方との顔合わせと作戦説明に入る手筈になっていた。なにしろ前回P−04の連邦軍司令部で行った初回の作戦会議には、肝心の境界漁民の少女たちが呼ばれていなかったのだから。 『へいへーい、軍人さんいらっしゃーい。船橋はこっちだよー』 真空の格納庫内で、ヘルメット内の無線機に一般回線が繋がってきた。 船倉内で誘導の赤色灯を振っていた軟式ノーマルスーツ――彼女もアイネと歳の近い少女らしい――が陽気な声色で、MSから降りてきた地球連邦軍の5人を、船倉内を前後に二分する隔壁のドアへと誘導していく。 「あ、ども――」 アイネが適当に会釈しながらドアを越えた先の前部格納庫には、RB−79『ボール』4機が駐機されていた。いわば『餌』として今回の作戦の要となる、境界漁民たちの機体だろう。 以前に見た民間警備会社VWASSの機体と異なり、一年戦争当時さながらの長大な低反動砲を装備している。その威容はジム用のハイパーバズーカと比べてもまったく見劣りしない。アイネは唸った。 「うーむ。こうやって近くで見るとやっぱり、ボールの主砲ってすごいな……」 まともに胴体へ直撃すれば、相手がザク?だろうがゲルググだろうが問答無用で消し飛ばしてきた代物だ。 その長砲身の迫力と、連邦軍に予備役登録しているとはいえ一介のジャンク回収業者がこんな大物を堂々と装備して許されているP−04周辺の環境の異様さに、アイネは思わず息を呑んだ。 「あれ?」 そして息を呑んだ次の瞬間、アイネは頓狂な声を上げていた。ちょうど近くに来ていた、訓練生課程からの親友の肩を叩く。 「ねえシエル。あれって、ジム……ジムだよね?」 『モビルワーカー……? ええ。確かに、ジム……ジム、みたい、だけど、……あんなジム、あったっけ……?』 アイネに聞かれながら同じく格納庫の奥を凝視するシエル・カディス伍長も、戸惑い気味の返事を寄越した。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/144
145: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:11:50.08 ID:O+JwS4S5 RGM−79、いわゆる『ジム』には一年戦争以来、大きく4種の基本系列が存在する。アイネたちはそう教えられてきた。 まず、もっとも生産数が多く、連邦軍あるところほとんどどこでも見かけられる『標準型』。 『A』や『B』のサブタイプを持ち、のちに近代化改修されて今アイネたちが乗るRGM−79R『ジム?』となった系列だ。 『標準型』は地球系のサプライチェーンを用いてルナツーやジャブローで量産されたもので、今なお『R』型の新造が大々的に続いている。 新興の連邦軍特殊部隊『ティターンズ』でも『RMS−179』の型式番号で採用され、独自の拠点で量産されているらしい。 もう一つが『C』のサブタイプを持つ、『改型』あるいは『月面型』とも呼ばれる系列。『標準型』に次いで生産数が多い。 一年戦争中に連邦軍のV作戦に参入したアナハイム・エレクトロニクスを中心とする月面系企業群が、独自のサプライチェーンで標準型と同等の基本仕様を満たしつつ、 独自要素も盛り込んで製造したものだ。 『改型』は一年戦争末期から連邦軍MS閥によって高い評価を獲得し、一時は『標準型』を押し退けて連邦軍第一線MS隊の主力機になるほどの勢いだったという。 しかしその後、当のMS閥が失脚。連邦軍と月面系企業群との関係も大きく修正されると、『改型』の導入も一気に失速していった。以降『改型』は第二線級部隊に追いやられ、 さらに既存機へ『ジム?』規格を導入する近代化改修事業の対象となった機体もごく一部のみに留まり、事実上見送られるなどして零落。 今や残存機も少なからぬ数が退役し、コロニー公社などへと民生用に払い下げられているという。 アイネが交戦し、格闘戦で1機のコクピットを貫いて撃墜した反地球連邦組織『エゥーゴ』のジムも、この『改型』をベースにした改修機だったように見えた。 噂通り、エゥーゴの背後に月面企業群があるというなら、『改型』のジムを使っていたのも納得できる。 そして三つめが『オーガスタ前期型』。『G』のサブタイプを持つジムだ。 『オーガスタ前期型』は『標準型』や『改型』と異なり、『ジム』としての基本仕様を必ずしも遵守せず、次期主力量産機も視野に入れた野心的な設計で作られた。 スペック面では高性能ながらも扱いの難しい機体となり、総生産数もさほどではないらしい。 これらのうち、戦後に持て余されていた宇宙戦仕様――『GS』型の機体在庫をP−04の連邦軍現地派が引き取り、 独自に『ジム?』規格やその他の近代化改修を施した局地戦機が、RGM−79GSR『ジム・ゲシュレイ』である。 そして最後の4番目が『N』と『Q』のサブタイプを持つ『オーガスタ後期型』。 癖の強かった『オーガスタ前期型』の教訓を踏まえ、さらなる新技術を取り入れつつも従来の短所を丁寧に潰すように開発された癖のない高性能機、 RGM−79N『ジム・カスタム』と、ティターンズ主力機も務めた対反乱戦特化型の高級量産機、RGM−79Q『ジム・クゥエル』がそれである。 素の『オーガスタ後期型』はジム?が一般化した今となっては、スペックシート的にそこまで特筆すべき事項があるわけでもないが、とにかく造りが良いらしい。 NでもQでもどっちでもいいから一度は乗ってみたいなあ、とアイネはかねがね思っていた。 一口に『ジム』と呼ばれるMSには、連邦軍中央ですら把握しきれているか怪しいほどに多種多様な派生型が存在する。だが、それらの基本型となるのはこの4系統だけだ。 そう教わってきて、そう思っていたのだが。 『これ、どう見てもジムっぽいけど……標準型でも、月面型でも、オーガスタ型でもないよね』 「じゃあ、これは、……なに……??」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/145
146: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:12:54.78 ID:O+JwS4S5 『どしたんすか?』 アイネとシエルが足を止めて謎のジム風MSを凝視していると、さっきの誘導係がにゅっと顔を出してきた。 バイザーの向こうの浅黒いボーイッシュな顔立ちの中に、くりっとした大きな瞳がかわいらしくこちらを見ている。 とりあえず、聞いてみることにした。 「これ、ジムなんですか?」 『あー、らしいっすね。ウチの会社は連邦軍から委託された地上事業で、これの同型ジャンクをたくさん回収してるんすよ。 一年戦争のとき連邦の地上軍が『標準型』の配備を待てずに先走って、独自規格で勝手に作ったジムがあるらしいんすけど、こいつらがそれだって言ってました。 んで、こいつは社長が何年か前に、南アジアの山ん中から掘り出してきた奴らしいっす』 『……そういえば、なんか聞いたことあるなその話。確か『陸戦型ジム』とかってやつじゃなかったっけ。今はもう、地上軍でもあらかた退役してるとか……』 「やっぱり、一応ジムなんだ……そんなのあったのか。でも、『陸戦型』?」 アイネは眉を顰める。ここ宇宙だぞ。 『あちこちの戦場跡からジャンクで回収したのを、他機種とかも合わせてニコイチサンコイチしながら中身もちょろっとイジったりして、後は地上で社用モビルワーカーにして使ってたらしいっすね。 今回の宇宙進出に合わせて、こいつらも宇宙用に若干いじり直してから打ち上げてきた、って聞きました。うちらは『ディガー』って呼んでます』 「『ディガー』……じゃあこれ、宇宙でも使えるの?」 『そりゃまあ多少は。でもさすがに中ブルだからねー、軍人さんたちが乗ってるような『最新型』にはかなわないっすよぉ』 あはははは、と気持ちよさそうに少女は笑い、アイネも思わず愛想笑いを返す。 ジム?が『最新型』、か。エゥーゴの強力な新型MS群を見せつけられた後だと笑うに笑えないのだが、アイネは笑って誤魔化した。 誤魔化しながら改めて、アイネはダーウィン社のモビルワーカーになっているという『陸戦型ジム』改め『ジム・ディガー』をさっと観察してみる。 普通のジムなら左右一対の60ミリバルカン砲ユニットが収まっているはずの頭部両額に、それらしく見える開口部は無い。ダーウィン社での改設計とやらで撤去されたのか、元から無かったのか。 バックパックのメインスラスターは4発ノズルで、全体の意匠はジム?のそれに酷似しているようだ。ビームサーベルが片側に1本だけ挿されている。 一方、ジムマシンガンなど射撃兵装の類は近くに見当たらない。あくまで民生用モビルワーカーとして、完全な非武装仕様にされているのか。 代わりに左腕にはやや小振りだが重厚な、盾らしきものが残されていた。鋭利な刃の付いた、ごつい爪部らしきものを備えている。 『エゥーゴ』の改型ジムが『事故』を装いながら仕掛けてきた格闘戦。あのときシュン・カーペンター伍長機を貫こうとした敵機が繰り出してきた盾爪の禍々しさを、アイネは実戦感覚とともに思い出す。 なかなか凶悪なフォルムにも見えるが、果たしてこの盾は作業用の『工具』として使うものなのだろうか……。 「……おや?」 軽く身震いしながらも、その盾の表面に3つ斜めに並んで書かれた数字の『7』に気づいて、アイネは声を弾ませながら呟いた。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/146
147: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:14:28.33 ID:O+JwS4S5 「スリーセブンだ! 縁起のいい機体なんだねっ」 『あー。それ山ん中から発掘したとき、そこの数字の『7』ひとつだけ掠れてギリなんとか読めたらしいんすよね。 なんか縁起悪そうで嫌だったから、あと二つ足して『777』にして誤魔化したって言ってました』 「…………」 からからから、と少女は笑う。 聞かなければよかった。つまり、以前この機体に乗っていたパイロットは……。 『そこの二人、いつまで油を売ってるつもり? いい加減に行くよ』 無線で呼ばれて顔を上げれば、カリナが腰に手を当てながら不機嫌そうにふんぞり返っていた。 その傍らでアイネとシエルのMSパイロット訓練生課程の同期、ニノン・ルクレール伍長が口元に手をやってくすくす笑っている。マリエルも呆れていた。 「は、はいっ」 アイネはばつの悪い返事を返し、5人でエアロックをくぐった。与圧された船首区画に入るとヘルメットを外し、通路を走るリフトグリップを握る。 『ダーウィン』はサラミス改級の5分の2ほどしかない小型船だから、船橋まではあっという間だった。 トラキアのMS格納庫から艦橋までに比べれば一瞬だ。 船橋のドアを開けると、ブリッジの小さな空間が広がった。 大窓を通して宇宙に臨む前縁に、軟式ノーマルスーツを着てコンソールに向かう若い女が2人。そして片側の奥に、旧式パイロットスーツを着たミドルティーンほどに見える少女たちが4人で固まっている。 そして中央の船長席には、あの冗談じみて大時代な海賊帽を被った金髪ツインテールの長身爆乳美女――クレア・ダーウィン船長が、威風堂々と待ち構えていた。 クレアが船長席から立ち上がりながらニヤリと笑う。 「ようこそ『ダーウィン』へ! 可憐な漁民少女たちを守らんとする連邦軍人諸官の、勇気ある船出を歓迎しようっ」 「カリナ・ベルトラン軍曹以下5名、MS4機にて乗船完了しました。ダーウィン船長のご厚意に感謝いたします」 クレアのやたらにオーバーアクションなキレキレの敬礼とまるで覇気のないカリナの敬礼が交錯して、若い女ばかりが10人以上も集まった狭い船橋に何とも言い難い独特の居づらさが発生しかける。 だがクレアが素早く次の話題を出してきたおかげで、それ以上の空気悪化は回避された。 「ようし、では初顔合わせと行こうっ。アレント社長代行、こちらが連邦軍『亡霊』討伐任務部隊長のベルトラン軍曹だ!」 旧式パイロットスーツを着た少女たち4人のひとりをクレアが指し示すと、亜麻色の長髪を揺らしながら、美少女が不機嫌そうに顔を上げた。 「…………」 「おお」 ずいぶんと顔立ちの整った美少女だ、とアイネは唸る。 美人や美少女は特にここ最近でかなり見慣れた感があったが、それにしても、この少女はかなりのものである。ハートを掴まれそうになってしまった。 気の強そうな、気を張った感じ。うかつに手を出せば噛まれそうな猫のような気迫。 だが、それがいい、と感じてしまう。 存在感にみずみずしい透明さを感じる。年の頃は、ミドルティーンほどだろうか……。 アイネは思わず手に汗握った次の瞬間、その後方に、見覚えのあるボーイッシュ少女の顔を発見して吹きかけた。向こうもすごい表情でアイネを凝視している。 「えっ」 なんであの子がここに。確かVWASSとかいう警備会社勤務だったはずでは。警備員から漁民に転職したのか?? こちらを凝視したまま、驚きと衝撃と喜びと謎の感動が謎の配分で入り混じったと思しき、何とも言えない絶妙に妙ちきりんな表情で硬直したアシュリー・スコットへ、アイネは反射的にぎこちないウィンクを送った。 それでとりあえず彼女を少し黙らせておくことにかろうじて成功すると、アイネはアレント社長に視線を戻した。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/147
148: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:15:58.66 ID:O+JwS4S5 カリナ、マリエル、ニノン、シエル、そしてアイネまでの軍人5人を冷たい瞳でさっと一瞥した後、彼女は進み出ながら、はっ、と一息吐き捨てて一礼する。 「この度はご協力まことにありがとうございます。アレント廃品回収社社長、フィオ・アレントです」 「クシナダ任務部隊指揮官、カリナ・ベルトラン軍曹。よろしく。――このまま彼女たちに、作戦内容を説明しても?」 「ふむ?」 手短な挨拶を終えると、カリナは船上の最上位者たる船長席上のクレアを仰ぐ。船長から制止されないと見るや、口頭だけでそのまま続けた。 「作戦はシンプル。期間は最大7日間。『ダーウィン』はこのまま船長計画の隠密航行で、境界宙域の『宝船』とやらへ向かう。 首尾よく接触できたら、あなたたちは回収に行く。その途中で『亡霊』が現れたら、それまで『ダーウィン』に隠れていた私たちが飛び出して、一気に『亡霊』を仕留める。 騒ぎに感づいたルスランの連中が沸いてくる前に、さっさと引き揚げて帰る。それだけ。以上」 ――いやいや、ぜんぜん『シンプル』なんかじゃないでしょ。 カリナの大雑把すぎる説明を聞きながら顔を引きつらせ、アイネは改めて認識する。 この作戦には何しろ、不確定要素が多すぎるのだ。 例えば――『亡霊』と接触するより先に、ルスランが暗礁宙域に多数『飼って』いるという宇宙海賊のような雑多な連中に襲われてしまった場合、護衛部隊はどう動くのか。 どの段階から、姿を現して迎撃してしまってもよいのか。 あるいは『亡霊』と同時に強力なルスラン哨戒部隊も襲いかかってきた場合、あくまで『亡霊』の撃破を優先するのか、まず漁民を護衛しての安全な撤退を優先するのか。 何を優先して、何を優先しないのか。それらの基準は何なのか。 恐るべきことに、作戦計画として事前に対処方針を決定しておくべき事項の多くが、未だにほとんど何の明文化も認識共有もされていなかった。 ルウム農協の少女兵たちによる当初の立案後、『クシナダ作戦』はその実施主導権を連邦軍内の派閥争いで『現地派』から『中央派』に奪われた。 それきり細部は混乱の中で実質的に放置されていた。ほぼ完全に『出たとこ勝負』なのだ。 こんなもの、とうてい『作戦』などとは呼べない――強く懸念するアイネの眼前で、亜麻色の髪の美少女が腕組みしながら半目で呟いた。 「へぇ。あなたたちが、私たちを『亡霊』から守ってくれるってわけ」 「ええ。まあ、そうなるね」 アレント社長――クレアにそう呼ばれた美少女、フィオ・アレントはカリナを下から舐め上げるように睨み上げる。カリナもそれを胡乱な目つきで受け止めた。 「ちょ、ちょっと、フィオぉ」 フィオにいきなり友好さの欠片もない態度で入られて、豊満体型で人の良さそうなツインテール少女、マルミン・ポリンがフィオの肩を掴もうとする。 そしてフィオにその手を払いのけられた。 「どうだか。実際、『亡霊を仕留める』気まではあっても、本当に『私たちを守る』気はない――そんなところじゃないの」 「なに……?」 フィオの物言いに、カリナが剣呑に表情を歪めながら息を呑む。 その有無を言わせぬ威圧的、高圧的の見下ろしてくるカリナの態度に火を付けられたのか、フィオは最初から食いつくようにカリナを下から睨み上げた。 「もし首尾良く、『亡霊』を仕留められたとしてもね――それで海賊だのルスランの連中だのが沸いてきて、また『宝船』を逃す羽目になったら意味ないのよ。 自分で何も考えなくても給料貰えるあんたらと違って、私らは生活かかってんの。『亡霊』も『宝船』も、次で全部片づけなきゃなんないのよ。わかる?」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/148
149: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:16:47.54 ID:O+JwS4S5 「……そこは、あんたらの手際次第ね」 「はぁ? あたしたちが自分で出来れば、ぜんぶ出来るに決まってるでしょ。やる気無さそうなオバサン連中が問題なのよ。何ならあたしたちのボールとあんたらのMSを交換してみなさいよ。あたしたちだったら絶対ヘマせず全部やり遂げてみせるから」 「…………」 「いや、自分はやっぱりMSよりボールの方がいいッス。一球入魂、ボールですべてやり遂げてみせるのが真のプロボウラー(職業ボール操縦士)ッス」 カリナとフィオの対決があっという間に白熱しすぎて、まったく空気を読まずに発されたアシュリーの発言は誰の耳にも入らなかった。 アイネの背中に、嫌な汗がびっしりと浮かぶのを感じた。 「あ、この船のシステムってこうなってるんだー。へー。ふーん。どう、大変?」 「え……? え、ええ……」 ニノンは何も聞こえていないように、船橋コンソール群の表示を興味深そうに観察する体を装いながら、船橋前列に座る女性オペレータ2人の片割れに話しかける。 ニノンに話しかけられた女性オペレータはひやひやと後ろの様子に聞き耳を立てていたが、よく見るともう片方は船を漕いで――寝ていた。 シエルはすべてに呆れかえった半笑いのまま、物も言わない。 「……こうなるんじゃないか、と思ってはいたが――」 連邦軍側の次級者であるマリエルがアイネの傍らで重く呟きながら、介入のタイミングを計るように場を見回す。 マリエルはここまで同乗してきたアイネに機内で、カリナが『クシナダ作戦』の全体指揮を取ることへの懸念について話していた。 カリナは旧サイド5出身者ながら『現地派』を見捨てて『中央派』に取り入り、新サイド4からの『脱出』を目指す事なかれ主義者なのだと。 MSの腕自体は相応に確かだが、カリナもまた多くの『中央派』将兵と同じように実戦ではしばしば腰の引けた戦いぶりを見せ、『現地派』将兵や戦闘に巻き込まれた民間人たちから不評を買っていたという。 ――さすがのカリナも『亡霊』討伐という、与えられた最低限度の命令ぐらいはこなすだろう。 だが、それ以上のことは期待できない。 今回のような作戦でカリナが今まで通りの姿勢なら、『ダーウィン』や『アレント社』と強烈な摩擦を引き起こす可能性がある。 ――何ならあのフィオという少女も、カリナのこれまでの行状を知ったうえで食って掛かっている可能性すらある―― 今マリエルの眼前で、何か言ってやった感を醸し出しているアシュリー以外のアレント社の少女2人は、フィオの暴言におろおろと慌てるばかり。 そして肝心のクレア船長はといえば、船長席にふんぞり返りながら、ただ満面の笑顔で場を見下ろすだけだった。 「おお、熱き魂のぶつかり合い! 立場と組織の枠を超えてともに戦わんとするうら若き乙女二人の魂が、今ここでひとつに溶け合おうとしているッ!!」 ――いや溶け合うどころか、始まる前から空中分解しかけてますが。 嫌すぎる。この船橋、あまりに空気が悪すぎた。 こんなところにはもう1秒だって居たくはないが、この作戦は最長であと7日間続くのである。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/149
150: フェニックステイル第39話 [sage] 2024/03/10(日) 14:18:12.25 ID:O+JwS4S5 アイネはマリエルの傍らで強烈な帰りたさに襲われながら、そのみずみずしい美貌に激昂を宿すフィオに視線を戻した。 「『亡霊』は潰す。『宝船』も獲る。そして『全員で生還する』。『全部』やんなくちゃなんないのよ。ふざけんなよ。あんたらみたいに何のやる気もない雑な軍人どものせいで、……ナイアは……。あたしたちはこれ以上、もう……誰も、失えないのに」 アイネの知らない誰かの名を呼んだあと、ぎりっ、とフィオがきつく歯噛みする。一瞬俯いたその目に光る何かを見た気がして、アイネははっと息を呑んだ。 フィオが再びカリナを睨み上げ、真正面から啖呵を切る。 「テキトーにあたしたちだけ『餌』にして、『亡霊』だけ殺って帰ればハイ終わり、なんて安直な、漁の邪魔にしかならないクソ軍人どもなら……さっさとこの船下りて今すぐ帰れ、って言ってんのよ!」 「こ、……こんの、クソガ――」 「や、やばいよフィオぉ。謝ろ? ね? 今からでも謝ろ??」 「お、お姉ちゃあん!!」 いよいよ青筋を立てながら目を剥いたカリナが、フィオへと半歩前に出る。顔面蒼白涙目になった豊満なマルミンと小柄なボナが両脇からフィオを守るようにすがりつく中、迫りくるカリナの長身が拳を振りかぶり、いよいよフィオを打ち据えるかと思われたとき―― 「大丈夫。それ、私が全部やりますっ!」 「え……?」 二人の間へ割り込むように、アイネが大きく歩を進めていた。 「境界漁民の皆さんを守って、出てきた『亡霊』を仕留めて、『宝船』もちゃんとP−04まで持ち帰ってもらう。それ、私がやります。私なら出来ます」 「なっ、――」 強引に割り込んできたアイネの巨大なバストが、たわわに大きく揺れ弾むその圧倒的な質量の暴力で、二人を強制的に引き離す。フィオが反射的にアイネを見返してきたが、その表情に過ぎったわずかな怯みの色を、アイネは見逃さなかった。爆乳の圧でさらに押し込む。 「だ、誰よっ。この辺の部隊じゃ、見ない顔と名前みたいだけど――」 「アイネ・クライネ伍長です」 ストレートに短切に、はっきりとフィオに名乗って機先を制す。アイネは畳みかけるように後を続けた。 「ここでは新顔だけど、もう実戦経験は十分あります。私はジオン残党の名だたるエースパイロットと何度も戦って、勝って、生き残ってきました。そう。――私は、強い、です」 「は……っ? な、何を。で、デカけりゃいいってもんじゃ――」 「そうッ! クライネ伍長は、超強いんッス!!」 びりびりと鼓膜が震えるほどの絶叫。前列で寝ていた女性オペレーターがむくりと起きた。 全身を躍動させながら絶叫したアシュリーの援護射撃を背中に受けながら、アイネは予想外の伏兵に狼狽えるフィオを、そして拳を振り下ろす先を無くしたカリナを見つめた。 「だからアレント社長、私を――私たちを、信じてください。あなたたちのために、必ずやり遂げます。私は連邦軍人として、みなさん連邦市民を守ります。 ――ベルトラン軍曹、やりましょう。この作戦、私たちなら完遂出来ます」 何気無さそうにモニターの文字列へ視線を固定していたニノンが、横目でちらりとアイネを見た。マリエルがふっとため息を吐き、シエルがまた、呆れたような苦笑を漏らす。 「ほほう……これは実に予想外。……ここで新たなる勇者の誕生とは、……な!」 徹頭徹尾何一つ変わらぬ笑みのまま船橋内を睥睨する、クレア船長の眼下。 その場の全員を力強く眺め渡して、アイネは力強く宣言した。まずフィオとカリナに、次いでシエルとマリエルに――そして何より、自分自身へと言い聞かせるように。 「やりましょう――やり遂げてみせましょう。私たちの力で、私たちの『クシナダ作戦』を」 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/150
151: フェニックステイル第39話投下終了 [sage] 2024/03/10(日) 14:20:36.16 ID:O+JwS4S5 今回は以上です。 http://mercury.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1606753960/151
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