[過去ログ] 愛するが故に無理やり…… Part9 (359レス)
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154: 2013/10/15(火)00:59 ID:xxc6Cgs+(7/11) AAS
 運ばれてきたのはどうやら普通の紅茶らしい。木目のごつごつした机の上に、エイダはバスケットを置いた。アルフレッドは彼女の表情を盗み見、やはりとても美人であること、好みであることを確認した。
「見てもいい?」
 バスケットにかかった布を摘んで、エイダが嬉しそうに言った。
 ご自由に、とぞんざいに言いながら、実のところ彼女が喜んでくれてアルフレッドは嬉しい。ちょろいもんだ、と胸のうちに笑いながら、やっぱりちらちらエイダの方を見ている。
 布は取り払われた。いい匂いが強くなって、エイダは明確に歓声をあげた。
「本当にくれるのか」
「俺も食うぞ、もちろん」
「うん。――あれ」
 ふと、エイダが首をかしげた。バスケットの端に何やらカードが挟まっているのを、アルフレッドも見つけた。彼が止める間もなく、彼女はそれを取り、開いた。
「…………」
 直感で。アルフレッドは慌てた。エイダが凝視するカードを彼女の手からひったくり、文面に目を走らせる。
『私が今晩一緒に食べてあげましょうか? 愛を込めて アンナより』
 いらねぇよバカ野郎。
 とは言わないまでも、彼は歯ぎしりをした。
「まいったな、モテる男はつらいね。はははは」
「持って帰った方がいいな、これは。アップルパイはまた今度自分で焼こう」
 言って、アルフレッドを見上げたヘーゼルの瞳に、何の感情も見い出せなかったので、彼の方が余計に狼狽えた。
「いや、あんたに買ったもんだから」
「そうは言っても、アンナさんだってアップルパイが食べたくてしょうがないんだろう。私がそれを貰うわけには」
「んなわけあるか、そいつはアップルパイなんか死ぬほど食ってる。いいから気にせず食え」
「……死ぬほどアップルパイを」
「そうだ」
「あなたはそんなに彼女にプレゼントを?」
 宝物を見るかのように、エイダは黄金の生地を見下ろしている。
「じゃあ、これは私がいただきます」
 彼女の声が少し低く、笑顔も寂しそうに見えたことにアルフレッドは気付いた。
 そのことが嬉しかったので、アップルパイに関するエイダのちょっとした誤解は解かないでおいた。
 これはゆっくり距離を詰めていけばあるいは、と内心でほくそ笑む。
 ただ、エイダには未だかつてアップルパイを持ってくるような人間の友人がいなかったことと、自分には掃いて捨てるほどの女友達がいること――この重大な格差には彼は思い至らなかった。
 ひとまず、熱い紅茶と、冷める寸前のアップルパイはとても美味しく、口数は少なかったものの、魔女との会話も問題はなかった。
「あんたは料理をするのか? アップルパイは焼けるようだが」
 魔女はぎくりとした。
「それはまあ、一人だから。得意ではないけれど」
「そういや、どうして一人暮らしなんだ?」
「魔女とは一人で暮らすものだろう?」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
 アップルパイは期待したよりも減らなかった。さくさくと音を立てて噛むエイダの口元を見ながら、アルフレッドは隙を探す。彼女の下唇に生地の切れ端がくっついてるのを認め、これ幸いと手を伸ばした。
「付いてるぞ」
 ついでに指で唇を摘んでやる。ぷるんと、幸福な感触。女を陥れるはずが自分の背筋に熱が這い登ってきて、アルフレッドは、あれ、と思う。
 摘んだ食べかすはアルフレッドの口に入れた。
 女はこういうのに弱いのだ。
 エイダはぽかんとアルフレッドを見ている。
 目が合った。彼は唾を飲んだ。
 計算づくで動くはずが――彼はほとんど無意識に右手を動かした。エイダの真っ赤な頬を撫でさすり、唇を指でなぞった。彼女が固まって動かないのをいいことに、親指の先を口の中に突っ込んだ。
「…………」
 我に帰ったのはアルフレッドのほうだった。うあ、とエイダが変な声をあげたのを聞いて。
「……もうひと切れどうだ」
 ぶるぶる首を振って、エイダは椅子を大きく後ろに下げた。
「次私に触ったら、触ったら」
「どうなるんだ?」
「腕を落としてやる。壊死させて、ぽとん、だ」
 そいつはぞっとしねぇな。笑いながら、アルフレッドは右の親指をぺろりと舐めた。
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