[過去ログ] 東京マグニチュード8.0でエロパロ 震度2 (384レス)
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33: 二学期の、出来事 2010/03/02(火)19:10 ID:Vc/b2MEQ(10/25) AAS
 ユカは一人、走行するバスに揺られて帰路に着いていた。本当はこんなに早い時間に帰る予定ではなかった。
遊びに行くわけではないとはいえ、初めての未来の家なのだし、もう少しゆっくり話をしたいと思っていた。
でも、無理だった。ユカは、未来の悲しみの深さを覗いてしまった。とても直視できなくて、目をそらすことを
選んでしまった。あの部屋で未来と話なんてできる気がしなかった。マユを残して、逃げ出すことを選んでしまった。
別れ際の未来の言葉を思い返すと、心苦しくてたまらない。

 えっ、ユカ、今日ピアノのレッスンだったの? そっか、時間ないのに来てくれてありがとうね。
 帰り道、大丈夫? 送ろうか? 気をつけて帰ってね。じゃあまた明日、学校で。

 本当はピアノのレッスンなんてなかった。ピアノは地震のときに壊れてしまって、修理中だ。
ライフラインの復旧も済んでいない地域もあるこのご時世、ピアノの修理なんて終わるのがいつに
なるのかもわからない。だから地震が起きて以来、ユカはずっとピアノを弾いていなかった。
ユカは初めて、未来に嘘をついた。

 地震が起きる前は、ピアノのレッスンなんて面倒なものだと思っていた。ピアノ自体は嫌いではないけれど、
毎日毎日何時間もピアノを弾いていたら、正直ゲンナリしてくることもある。努力したからといって絶対に
ピアニストになれる保証もないのだし、だったら練習なんてほどほどでもいいんじゃないか、ピアノなんて
楽しんで弾ければいいんじゃないかとも思っていたのだ。
 でもいざピアノから離れてみると、毎日が空虚で退屈で仕方がなかった。ピアノから離れて初めて、
自分が他に頑張っていたことなんて何もないのだということに気がついた。突然自分が無価値な人間になった
ように思えた。

 バスの窓から反対車線を見ると、道路の補修工事が行われていた。地震の爪痕は、人々の努力によって、
徐々にではあるが、消えつつある。危険な建物の解体作業も、街を見回せば見つけるのに苦労しない。
ボランティアの人達も未だに各所で頑張っている。きっと悲しい思いを抱えながら働いている人も、
たくさんいるだろう。そんな人達が、ユカには眩しく思えた。自分は一番大変なときにたまたまこの街にいなくて、
大変が過ぎ去った頃に戻ってきただけだ。自分は何もできない。弟を亡くして悲しむ友達を励ますこともできない。

 ユカは思う。あたし、この街に戻ってきて良かったのかな。この街に居てもいいのかな……。
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