[過去ログ] 東京マグニチュード8.0でエロパロ 震度2 (384レス)
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30: 二学期の、出来事 2010/03/02(火)19:07 ID:Vc/b2MEQ(7/25) AAS
 三人がバスを降りて徒歩で未来の家に向かっていると、小学校が見えてくる。未来もマユも、
そして未来の弟の悠貴も通っていた小学校だ。ここも、地震の避難所になってたんだよね。
校舎を眺めつつ思うユカだが、震災直後の凄惨な状況を体験していないユカには、いまいち
実感の伴わない想像しかできない。
 無言で歩き続けて、フェンス越しに植木が茂る校庭が見えてきたところで、未来が自己紹介を
するときのような改まった様子で、提案してきた。

「ちょっと、寄って行っていいかな」

 ユカとマユは顔を見合わせる。特に断る理由はなかった。

 水を汲んだジョウロを手に未来が向かう先は、校庭の一角に植えられた幼木だった。まだ植えて
間もないらしく、根元の土と土の境目がはっきりとわかる。傾けたジョウロから水が注がれると、
水の重みで揺れる掌状の葉から、陽光を反射する水滴が滴った。

「トチノキ……かな」
「ユカ、よく知ってるね。フランス語だとマロニエっていうんだって。弟はそっちの名前で呼んでた」

 幼木の前にしゃがみ込んで、遠くを見るような目をして話す未来。

「夏休みの一日前にね……弟と一緒に植えたんだ」

 夏休みの一日前。つまり、あの地震の一日前だ。

「学校の帰りにね、ここにこうして水をやりに来てるの。なんだかここに来たら、弟に会える
みたいな気がしてさ……。はは、そんなわけないんだけどね」

 そう言って寂しげに笑う未来は、ユカがまだ見たことのない未来だった。どうしてだろう、
未来はこんなに近くにいるのに、どこか別の場所から話しかけてきているみたいに、遠くに感じる。
まるで十年後からタイムスリップしてきた未来と話しているみたいだった。

「優しいんだね、未来」

 そんな未来に、穏やかな口調で話しかけるマユ。ユカは何も言わなかった。頭の中に、未来にかける
言葉が思い浮かばなかったからだ。

「……そうかな」
「そうだよ」

 未来とマユの間には、まるで自分の周りとは違う空気が流れているみたいだった。どうしてマユは、
今の未来にそんなに自然に優しい言葉をかけられるんだろう。ユカには今の未来がどんな感情を堪えてきて
この場所まで辿り着いたのかまるでわからなくて、じっと二人を見守っていることしかできない。
やっぱり幼馴染だからなのかな。それとも、あの地震を一緒に体験しているからなのかな。ユカにはわからない。

「行こっか。ごめんね、付き合わせちゃって」

 立ち上がって、歩き出す未来。ユカは黙って未来の後をついていくことしか、できなかった。
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