[過去ログ] 東京マグニチュード8.0でエロパロ 震度2 (384レス)
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(1): 家路 2010/04/01(木)00:00 ID:fQi8b+W0(1/2) AAS
『帰ろ』
 夕暮れの、オレンジ色に染まった誰もいない公園で、独りブランコに座っていた未来は、悠貴に
促されるように立ち上がった。目の前に見えているのに、悠貴は本当はそこにはいないのだと、未来には
もうわかっていた。悠貴はもう死んでしまったのだと。
 でも、こんなとこでいつまでも泣いてるわけにはいかない。例え幻だったとしても、自分はあの時
悠貴と約束したんだ。お姉ちゃんが絶対家まで連れてってあげる、と。

「こんなところで一人でどうしたの?」
「…?」
 その時、不意に横から声をかけられ、未来が冥い目をそちらへ向けると、そこにはいつのまにか
ポロシャツ姿の五十歳前後の中年の男が立っていた。中肉中背で髪はやや薄くなり始め、にこにこと
柔和そうな笑みを浮かべていて、いかにも親切なおじさんといった風情だ。「近所の子かい? それとも
家族とはぐれちゃったのかな?」男性はそう言って、未来に歩み寄ってくる。
「まだ電気が点かないから、日が沈んだら真っ暗になるよ? 子供一人じゃ危ないから、おじさんが
送っていこう。お家はどこだい?」
「……」
 この震災を通じて、他人から向けられる善意のありがたさ、大切さを理解できるようになった未来
だったが、今だけは、その善意が煩わしかった。悠貴を家に連れていくのは、自分の力だけでやり遂げ
たい。誰の助けも借りず、姉である自分の力だけで、悠貴を家に連れていきたかった。

「あの、大丈夫です。わたしたちだけで帰れますから」
 未来がそう断ると、わたし“たち”という言葉に中年男性はおやっという顔をして辺りを見やったが、
他に誰もいないとわかると、再び彼女に視線を戻した。「遠慮しないで。こんな時は色々と物騒だしね」
 そう言って男は未来の腕を掴んだ。その力は強く、痛いくらいだ。「あ、あの…」どこか不穏な物を
感じ取った未来は、恐る恐る中年男の表情を伺ったが、そこで自分を見つめる男の瞳がぎらりと輝いた
のを、彼女は見逃さなかった。

 未来の背筋をぞくりと冷たい物が走る。この人物は真理や古市さんや、この数日彼女を助けてくれた
人々のような、善意の人などではない。未来は直観的にそう悟った。それどころか、親や先生から
よく言われていた、“話しかけられてもついて行ってはいけない人”なのだ。
「あの、本当に大丈夫ですから…」
「いいからいいから」
 後じさろうとする未来の腕を、男はぐいっと引っ張った。「ほら、こっちにおいで」
「は、離して」
「いいからほら、こっちに来るんだ」
「いや、やめて…っ!」
 次第に本性を現し、言葉遣いも態度も乱暴になってきた男に、未来ももう警戒心を隠そうとはせず、
男の手を振りほどこうともがきながら助けを求めてあちこちに視線を走らせた。しかし住宅街の中に
ありながら、多くの住人が避難所に避難している中で宵闇が近付きつつある今の時刻、公園の中は
もちろんのこと、辺りからはまったく人の気配は途絶えてしまっていた。いるのは未来と男と…そして
悠貴だけだ。
『お姉ちゃん!』
「悠貴!」
 はらはらと成り行きを見守っていた悠貴が、姉を助けようと手を伸ばした。未来も自由な方の手を
伸ばし、二人はしっかりと手を握りしめ…たかに思えたが、未来の手はするりと弟の手をすり抜けて
しまう。「あ…」

 未来は呆然として、やはり姉の手を掴めずに呆然となっている弟と見つめ合った。そうだ、もう悠貴と
手を繋ぐことは出来ないんだ。もう二度と…。
「ほら、こっちに来い!」
「きゃぁっ!」
 一瞬放心して立ち尽くしていた未来を、完全に本性を現した男が引っ張った。未来は悲鳴をあげると、
それが叶わぬ願いと知りつつも、もう一度弟に向けて必死に手を伸ばした。「いやぁ…助けて悠貴っ!」
『お姉ちゃん、お姉ちゃーーん!』
 悠貴も…悠貴の幻も必死に姉に手を伸ばすが、二人の手が触れ合うことは決してなかった。植え込みの
奥の暗がりへと連れ込まれていく姉に、悠貴が悲痛な声をあげるが、その声を聞く者は未来しかいない。
「悠貴…」
『お姉ちゃん…』
 絶望の色を浮かべた二人の視線が絡みあった。そして遂に諦めて足を止めた悠貴の目の前で、
未来の姿は植え込みの奥へと消えていった。
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