[過去ログ] スクランスレ@エロパロ板 20話目 (556レス)
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61: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:25 ID:qeMrBbKK(1/8) AAS
             *

 壮年期に入ったその男性は、町中にある産婦人科の病院に勤める医師だった。
 世間で少子化が叫ばれるようになって久しく、同業者の不祥事等に対する世間の風当たりは冷たくて、誤解を交えた認識に難儀させられた経験は多い。
 それでも出産を控えた男女の不安は変わらなかったし、それを励まし負担を少しでも軽くしようと努力を続けたつもりである。
 面倒毎も少なくないが、何よりも新たな命の誕生に貢献できることを誇りに思っていた。

 部屋で仕事着に着替えながら、今日を予定日に控えていた夫婦のことを考える。
 夫の職業は漫画家。子供に夢を与える職に就いていながら少々風変わりな風体をしていた。
 ヒゲにサングラス……当初目にした時は困惑したものだが、彼が妻をひどく愛しているのは診察の度に伝わってきたし、心優しい青年だと今では理解している。
 足しげく彼が通うようになってから、何となくこの近くでも小動物の姿を見る機会が増えた気がした。
省16
62: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:28 ID:qeMrBbKK(2/8) AAS
             *

 敷かれたカーテンの外では鳥が懸命に羽ばたこうとする音がした。
 薄日が差して人の影を浮かび上がらせる。

 「うぐぐぐ……」
 「そんなに焦らなくていいですよ。生まれてすぐ決めないといけないわけでは――あっ。また蹴って……もう、この子は」

 二階に設けられた個室――その一角にて。
 八雲は出産を控えベッドに横たわり、世界の祝福を間近に控えた我が子を落ち着かせるように膨らんだ腹を撫でていた。
 母親となる彼女の傍で、拳児は名前辞典とにらめっこしながら唸っている。
省33
63: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:29 ID:qeMrBbKK(3/8) AAS
 「大勢で押しかけちゃって迷惑じゃない?」
 「ううん、そんなことないよ。あ……誰かまた」
 コンコンと紳士的なノックがする。既に室内に詰め掛けている大勢を代表し、どうぞと八雲。
 やってきたのはまだ若々しい面影の残る彼ら――播磨修治とその恋人天王寺美緒、更にその兄であり拳児のライバルである天王寺昇。
 さすがに入りきらないと何人かが先に部屋を出た。

 「八雲姉ちゃん。気が早いけど、おめでとう」
 「おめでとうございます!」
 「二人とも……ありがとう。嬉しいよ」
 生花を渡される。見舞用なのだろう、匂いは弱くなっていた。
省40
64: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:31 ID:qeMrBbKK(4/8) AAS
             *

 「しかし大したものだね彼女は。おつきあいもあるにせよ、これだけの人間を集めることができるとは。お姉さん譲りなのかな」
 「へ? 本人の長年の成果……だろ?」
 「そうだな。あの子の連綿と続いてきた人生……その結晶だ」

 拳児は昼前に自分の両親と一緒にやってきた刑部絃子と、病院の外で自販機のコーヒーを飲み交わしていた。
 次々と訪れる客人を前に避難してきたとも、病院に迷惑をかけているようで気が引けたとも言う。というかむしろ、集まりすぎだ。
 ふいに頭を上げてみれば、八雲のいるはずの部屋の外窓に白と黒の猫一家が並び座っている。
 そして遠くに見える山脈の頭は雪を抱いてまだ白い。
 「なあ拳児」
省30
65: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:33 ID:qeMrBbKK(5/8) AAS
             *

 総毛立つ緊張に包まれた廊下。
 足つきのベッドに乗せられ病室へと戻される八雲。
 風に煽られて散るのを待つだけの冬の葉さながらの手を握り締め、拳児は呆然とした空虚さに襲われていた。

 「……拳児、さん……」
 「八雲……!」
 「赤ちゃん……は……」
 「女の子だ! ちゃんと産まれた! だから、だから……あとはゆっくり休んで、元気だせ!」

 今朝もいつものようにおはようございますと言ってくれた声は今は砂漠のように乾ききっている。
省15
66: 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:34 ID:qeMrBbKK(6/8) AAS
 八雲は全ての疲労と苦痛を取り払ったような安堵の笑顔を浮かべた。
 睫毛の陰の、灰色じみて何も映していなかった瞳の一点が光を取り戻す。
 枕のすぐ隣に寝かされた、目の開かない我が子の姿を確かに確認できたから。
 同じく、拳児の表情にも落ち着きが戻り目の潤いも止まる。二人は視線を合わせて頷いた。
 「拳児さん……」
 「頑張ったな。偉いぞ八雲」
 「……」
 八雲は眠ったままの愛し子――新たな自らの分身を目に焼き付けると、心配そうな親友達の表情から目を逸らし、再度拳児のほうに顔を動かす。
 本来ならもう休まねばいけない状態にある体を酷使して。震える唇を上下に開いた。
省28
67
(1): 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:35 ID:qeMrBbKK(7/8) AAS
 バターン!

 「じゃーん! お姉ちゃん登場!」

 ……はずだった。『病院では静かに』そんな文句など上等だと言わんばかりに暴走する彼女さえやってこなければ。

 「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
省27
68
(1): 27-3(おにぎりルート) 2010/02/16(火)19:44 ID:qeMrBbKK(8/8) AAS
 ――――――――

 おにぎりルート、これにて完結。
 当初の予定通りのオチに至るまで、伸びに伸びて・・・。

 あれこれと長い間スレを占拠してしまいすいませんでした。
 ちょっとでも読んでくれた人、感想を書いてくれた人、続きを待ってくれた人、
 どのくらい期待に応えられたか分かりませんがお付き合いくださりありがとうございました。
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