骨董屋シリーズだよ (139レス)
骨董屋シリーズだよ http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/
上
下
前次
1-
新
通常表示
512バイト分割
レス栞
抽出解除
必死チェッカー(本家)
(べ)
自ID
レス栞
あぼーん
107: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:06:41.21 ID:lqHBiA+4 九相の鏡の話 ああ、どうも、またまた来てしまいました。引退した骨董屋です。 今回は、私が経験した古物に関するエピソードの中から、 ある西洋アンティークの鏡の話をしようと思いまして。 ええ、ちょっとした話ならいくらでもあるんですよ。 でね、今になって考えると、古物の種類によって似たような不思議が 起きることが多いんです。人形、皿や壺、武具、掛け軸などの飾り物、 ガラス器、タバコの根付、仏像・・・不思議といえば不思議だし、 あたり前のこととも思えます。属性と言えばいいんでしょうか。 あまり難しいことはわかりませんが、その古物の用途によって、 凝る気に片寄りが出てくるんでしょうね。鏡なんかは特に、 女性の方は毎日見るでしょうから、何らかの念がこもりやすい。 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/107
108: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:06:56.71 ID:lqHBiA+4 江戸時代までは、金属製の鏡がほとんどだったのはご存知でしょう。 大量生産されてましたから、出回るのは質の良くないものが多いんです。 ガラスの鏡もあることはありましたが、小さいものばかりですし、 ゆがみもひどい。これは、日本では大きな板ガラスが作れなかったためです。 大型の姿見が出回るようになるのは、明治以降のことですね。 ああ、うんちくはこれくらいにして、本題に入ります。 私には一人弟がいて、私のようなヤクザな商売にはつかず、 当時の国鉄に採用されて駅長までやったんです。それで、娘が2人いまして、 私からみれば姪っ子です。その妹のほうが、まだ独身で 会社勤めをしていた頃の話です。はい、そのときには私はもう 引退しておりましたが、相談事があると言って家に来たんです。 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/108
109: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:07:33.86 ID:lqHBiA+4 なんでも、アンティークの鏡を家具屋で買ったが、それから精神状態が おかしくなったということでした。ここからは姪との会話です。 「どういうことなのか詳しく話してみて」 「はい、伯父さん。西洋アンティークの家具屋で、イタリア製という 姿見を買ったんです」 「大きさはどのくらい?」 「そうですね、台座もふくめて私の背よりも高いです。 180cmあるかもしれません」 「それは大きいね、で、店の人は どう説明してたの?」 「イタリア製、1910年代の製品。 台座はオーク材で手彫りの装飾。鏡面に曇りやゆがみはほとんどなし」 「へえ、そりゃいい出物だ、値段はいくら?」 「7万円でした」 「え、安い、値段については何か言ってた?」 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/109
110: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:07:52.19 ID:lqHBiA+4 「はい、すごく良いものなのにこの値段なのは、使い勝手がよくないからだって」 「どういうこと?」 「ほら、ふつう姿見って見る角度を変えられるよう 動くじゃないですか。それが固定されたままで動かなかったんです」 「ほう」 「でも、すごく気に入っちゃって、どうしても欲しくて しかたなくなったんです。動かないけど、正面に立って見るぶんには 問題ないし、値段も、私のお給料でなんとか買える額だし」 「ああ、物と人の出会いってのはあるもんだよ。ひと目見て魅入られたように なってしまって、どうしても手に入れたくなる」 「ああ、そうです。そんな気持ちでした。それで、貯金をおろして 現金で支払い、家具屋さんに部屋まで運んでもらったんです」 「よほど気に入ったようだね」 「はい、すごく・・・自分がよく見えるんです」 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/110
111: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:08:08.51 ID:lqHBiA+4 「ははあ」 「すらりとスタイルがよく、顔も細面で、何を着ても似合いそうな まるでモデルみたいに」 「それはおそらく、わざと曲率をゆがめてつくって あるんだろうね。ほら、お化け屋敷に入れば、伸び縮みして見える 鏡があるじゃない。あそこまで極端でなくても、縦長に映って見える」 「ああ、やっぱりそうですよね」 「まあ、お前はもとからスタイルはいいと 思うけど。専門的なことを言うと、ガラスがかまぼこ型に盛り上がってるんだ。 だから手足の先端にいくにしたがって細長く見える。でも、ちょっとさわった くらいじゃわからんよ」「それで、鏡に何か変なことが起こったわけじゃなく、 その鏡が来たことによって、私が変わっちゃったんです」 「どういうことだい?」 「まず、すごく服装にお金を使うようになりました。 店先やカタログで、いいなっていう服を見つけると、 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/111
112: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:08:37.62 ID:lqHBiA+4 これを着て鏡に映してみたらどう見えるんだろう、って考えちゃって」 「で」 「とにかく買いまくっちゃったんです。後先考えず高価なブランド品を」 「ははあ」 「私はまだ入社2年目で、お給料も少ないんだけど、 そのほとんどを服やバッグにつぎこんで」 「それで痩せてるんだな」 「はい、部屋代と光熱費は決まってて、削れるのは食費だけだったので」 「それで」 「でも、お腹がすいたとも思いませんでした。買った服を着て 鏡に映してみると、雑誌から抜け出したみたいに見えたんです」 「まさか借金とかした?」 「いえ、そこまでは。でも、あのままだったら きっとそうなってたと思います」 「うーん」 「それから、つき合ってた人がいたんですけど、その鏡が来てから 別れてしまいました」 「それはどうして?」 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/112
113: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:08:58.05 ID:lqHBiA+4 「うまく言えないんですけど、この人は私にふさわしい人じゃないって 思えてきて。今考えれば、とんでもないことでした」 「今も別れたまま?」 「・・・すごく後悔しています。でも当時は、 とにかく彼の欠点ばかりが目について、一つ一つのしぐさや癖、 それが何もかも鼻について嫌でした。それと、不思議なことがあったんです」 「ほう、どんな?」 「私と彼とがその鏡に並んで映ったことがあるんです。 もちろん縦長ですから、2人の全身は入らないんですが。 彼が小さく見えたんです。背が低く太った感じに。それを見て、 ますます、ああこの人と私は似合わないって思って、 私のほうから別れを切り出したんです」 「うーん、それで」 「あと、会社での私の立場も悪くなりました」 「どうして?」 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/113
114: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:09:21.64 ID:lqHBiA+4 「すごく態度が高慢になってしまったんです。私がこんなコピー取りや お茶くみなんかしてるのはありえない、もっともっと活躍できる、 私にふさわしい場が他にあるだろうって思って、それが態度に出て」 「それだと、イジメられるだろう」 「はい、イジメられるというか、 ある昼休みに、女子社員の何人かから呼び出されて、いろいろキツイことを 言われました。それと、上司からも一人別室に呼ばれて叱責されたり」 「で」 「こんな会社、辞めてやろうって考えてた矢先のことです。 その夜も、姿見の前で、買ったばかりの新しい服を身に着けてあれこれ ポーズをとっていました。何時間でも見てられるし、陶然とした 気持ちになってくるんです」 「で」 「そのとき、ドアのチャイムが鳴って、 無視しようかとも思いましたが、出てみたんです。 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/114
115: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:09:38.46 ID:lqHBiA+4 別れた彼でした。私は、ドアチェーンをかけたまま、あなたにもう用事は ないから帰ってって言いました。すぐ鏡の前に戻りたくて。 そしたら、彼は何も言わず、細く開いたドアのすき間の上のほうから、 中に金属の工具を投げ込んだんです。バールって言うんでしょうか、 細長いやつ。それは横を向いていた鏡の縁にあたり、せまい部屋ですから 壁にはね返って、鏡面を割りました。そのときに、拍手の音がしたんです」 「拍手?」 「はい、劇場かどこかで、大勢の人がするような拍手の音」 「うーん、それで」 「その瞬間、憑きものが落ちた感じがしました。 あれ、私、何をやってるんだろうって」 「なるほど、だいたいわかった。 伯父さんは西洋物は詳しくないが、これから行ってその鏡を見てみよう」 でね、まだ鏡はそのままにしてあるからということで、 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/115
116: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:09:54.96 ID:lqHBiA+4 いっしょに姪の部屋に行ったんです。いや、ひと間の部屋の中は服や靴、 バッグ類とその箱であふれてました。あと、カップ麺の容器がキッチンに 積み重なって。鏡は八方にヒビが入ってましたね。ひと目でいいものだということは わかりました。ただ、装飾が不気味で、鏡の周囲をとりまいた蔦の深彫りが、 まるでネズミか何かの頭蓋骨を並べたように見えたんです。 持っていった軍手をはめて、鏡の破片を一つずつ慎重に剥がし、 段ボール箱に入れていきました。裏板があらわになったので、さらに調べると、 二重になってるように思えました。それで車から道具を持ってきて、 上板をはずしてみたんです。端が糊づけされているようで、作業は困難でした。 下の板に何かが貼られているのはすぐにわかりましたよ。 それを傷つけないように慎重に外して、何が出てきたと思います? http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/116
117: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:10:12.06 ID:lqHBiA+4 古いモノクロの写真が9枚、縦にならべて貼られてたんです。どれも 一人の外国人女性、おそらくイタリア人でしょう、を写したものでした。 1枚目はその女性が4歳ほどで、大きなお屋敷の庭で遊んでいる姿。 2枚目は10歳くらいで、広間でピアノを弾いてました。3枚目は15歳くらい ですか、私立学校の寄宿舎らしき場所で撮ったもの。 4枚目はその女性が舞台に立っているところで、女優になったんでしょうか。 あとで調べてみましたがよくわかりませんでした。次も舞台で踊っているもの。 6枚目はその女性の結婚式で、結婚が遅かったんでしょう。 30歳を過ぎているように見えました。それと、場所は教会でしたが、 神父さんの姿だけが切り抜かれてました。7枚目は3人の子どもに囲まれている姿。 8枚目、女性はまだ40代に見える姿で棺に入れられていたんです。 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/117
118: 名無し百物語 [sage] 2019/11/01(金) 05:10:28.32 ID:lqHBiA+4 どの写真も黄ばんで、縁はぶさぶさになってましたね。 ですから、撮られてかなりの年月がたってから、鏡の中に収められたんだと思います。 ・・・最後の一枚についてはあまり話したくないです・・・ 時刻は夕方でしょうか、 その女性の遺体が暗い森の中の土の上に放置され、数匹の野犬が顔や手を 齧っている・・・そんな写真がなぜ撮られたのか、特に最後の一枚を撮ったのは 誰なのか、何もわかりません。その鏡はどうしたかって? 私の手に負えるものでは ないことは理解できたので、ローマ法王庁に事情をしたためた手紙を出しました。 そしたら、すぐに送ってほしいという返信が来て、ガラスの破片ともども 船便で送ったんです。はい、向こうで処理されたんでしょう。感謝されましたよ。 話はだいたいこれで終わりです。姪には、その青年と仲直りするように言いまして、 姪もそのつもりでした。結局、2人は結婚して今にいたるんです。 http://fate.5ch.net/test/read.cgi/kaidan/1565990199/118
メモ帳
(0/65535文字)
上
下
前次
1-
新
書
関
写
板
覧
索
設
栞
歴
スレ情報
赤レス抽出
画像レス抽出
歴の未読スレ
AAサムネイル
Google検索
Wikipedia
ぬこの手
ぬこTOP
0.920s*